A-Style 家づくりの経済学  83
家づくりの経済学
 
家づくりの経済学(83) 材工一式と材工分離 (3)

しばらく耐震強度偽装事件に気を取られて、中断してしまった住宅の価格について考えてみたいと思います。

 

モノの値段は、売り手側が設定します。自動車や家電商品など完成した商品にはどれも値札が付けられています。同様に、不動産会社のチラシなどを見ても、新築のマンションや建売戸建てはもちろん、中古の住宅や宅地など、現物がある商品には値段が付けられています。消費者は、現物と値札を見比べてみて、どの商品を選ぶかを決められるわけで、売り手が付けた値段が高いと思えば、買わない、または値引き要求することになります。

ただ、住宅の価格は、土地の値段が立地条件などで千差万別ですし、建物の仕様もバラバラで、単純に比較することはできません。耐震強度偽装事件で問題となったマンションを取材していると、問題となったヒューザーの物件について「世間相場から見て、やはり値段が安すぎた」との声も聞きます。被害者の住民の方には酷な言い方ですが、値段が安いのにはそれなりの理由があるものです(もちろん高ければ必ず良いとも限りませんが…)。

ここで言う“世間相場”とは、分譲マンションであれば、土地代も含めたマンション価格の坪単価を周辺の相場と比較することを指していることが多いようです。マンション価格の坪単価とは、専有床面積30坪で価格4500万円のマンションであれば坪単価は150万円ですし、価格3000万円なら坪単価は100万円となります。

マンションは、敷地の容積率制限ぎりぎりで造るのが一般的。その場合は、購入者が区分所有する土地面積は、容積率の逆数を専有床面積にかけて、容積率300%のマンションであれば専有床面積×1/3、容積率400%なら専有床面積×1/4で計算できます。マンション用地の仕入れ価格は、路線価が目安と言われていますから、路線価に容積率の逆数をかけたものがマンション価格の土地部分の坪単価となります。

これにマンション業者の粗利が2割上乗せされて、マンション価格の坪単価は次のような数式で表すことができるでしょう(あくまでも目安ですが…)。

【マンション価格の坪単価=路線価坪単価×(容積率の逆数)+建設費坪単価+粗利2割】

例えば、容積率300%で路線価が坪150万円の土地に建てられたマンションであれば、土地部分の坪単価は150万円×1/3=50万円。マンション販売価格の坪単価が150万円であれば、粗利分は2割の30万円として、数式に当てはめてみると【150万円=50万円+建築費単価+30万円】となりますから、建築費単価は坪70万円と算出できます。

これが、敷地条件が同じで、マンション価格の坪単価が100万円で売り出されていたら、建築費単価は坪30万円という計算になります。さすがに鉄筋コンクリート造で、坪30万円というと、建物の構造をかなり疑ってかかる必要があると思われます。逆に、建物の方はかなりしっかり建てられているのならば、マンション用地を路線価よりも大幅に安く仕入れていると考えられます。土壌汚染、軟弱地盤、洪水、活断層など敷地に問題がないかを考える必要があるかもしれません。

すでに完成している住宅の場合は、自動車や家電製品などと同様に、材料費や労務費、土地購入費などの商品原価の詳しい内訳までは、通常は開示されないでしょう。そのような状況で、住宅に付いた値札の数字が高いのか、安いのかを判断するのであれば、坪単価を算出してみて周りの物件と比べてみることができます。

 

すでに完成している住宅の価格と、これからつくる住宅の価格では見方を変える必要があります。これからつくる家の場合、当初の「予算」はありますが、それが完成品のような「価格」ではありません。最近では、携帯電話などでいくら使っても料金が変わらない「定額制」が増えていますが、家づくりは材料や手間をかけた分だけ価格が高くなる「従量制」。設計者や工務店もアドバイスしてくれますが、消費者も最終的な価格にかかわっていることを自覚する必要があるでしょう。

最初に大まかな「予算」を決めたうえで、建築主のさまざまな要望を入れて設計図面が作成され、内装や設備の仕様も固まると、工務店が「見積書」を作成します。最初のページには、請負工事「一式」で見積額+消費税が書かれていると思います。次のページから、工事ごとの詳細な内訳の見積額が記載されているはずです。

「一式」という言葉を、広辞苑で引くと「それについての全部。ひとそろい」とあります。「それ」と言っても、どの範囲で区切るかで、さまざまな「一式」があり、住宅の請負工事「一式」であれば、ハウスメーカーや工務店が請け負った建築工事の全部。請負工事を工種ごとに分けると、基礎工事一式とか、木工事一式とか、電気工事一式などで“ひとそろい”となります。

工種ごとの工事は、さらに細かく分かれます。例えば基礎工事であれば、地面を掘削して地固めする「土工事」、基礎部分の配筋を行う「鉄筋工事」、コンクリートを流し込むための「型枠工事」、「コンクリート打設工事」などがあります。それぞれの工事ごとに見積額が算出され、鉄筋工事であれば、鉄筋などの「材料費」と鉄筋を加工して組み立てる「工賃」(労務費を含む)が見積額に含まれます。

工務店は、最初に設計図面に基づいて数量を拾い出します。基礎伏図などによって使用する鉄筋の数量や打設する生コンの体積を算出し、鉄筋や生コンの単価をかけて、工事ごとの見積額を計算します。かなり緻密で面倒な作業を行った上で作成された見積書ですから、最初の「坪単価50万円」といった概算で出した「予算」とは異なり、ここでの見積書の金額は最終的な「価格」に近いものが出てきます。

施工業者によっては、見積書の内訳を非常の大雑把な形でしか出さないところもあると聞きます。私の家を施工してくれたB工務店の見積書は、鉄筋や生コンの単価、数量などの内訳も明記された詳細なものでしたが、問題はこの見積書の中身をどのように読み解くか。完成した建物のように世間相場と比較してみて判断するわけにもいかず、鉄筋や生コンの単価は、さすがに「価格ドットコム」にも乗ってはいません。

工務店から見積書が提示されて、その見積額で合意して工事請負契約を結んだ時点で、ようやく「価格」が決まります。その見積額をどう判断すれば良いのか。建築主としては悩ましいところだと思うのです。

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