A-Style 家づくりの経済学  81
家づくりの経済学
 
家づくりの経済学(81) 建築行政のあり方について(2)

日本の建築生産システムは、素人建築主である一般消費者にとっては、かなり不親切なシステムと言えるかもしれません。とにかく、消費者が家を建てるのに必要な情報が圧倒的に不足しているのです。

誰に設計を依頼すればよいのか、施工業者はどこが良いのか、どこに腕の良い職人がいるのか—。

いざ、家を建てようとしたときに、それらを判断するための客観的な情報を入手するのが極めて困難であることを、誰もが実感するでしょう。私自身、郷里の札幌を離れ、社会人になってから埼玉県さいたま市に住み始めて15年目に家づくりを体験したわけですが、実家から大工の棟梁だった父を呼ぶわけにもいかず、誰に家づくりを依頼すればよいのか、本当に悩みました。

日本には一級建築士だけで30万人、二級建築士で65万人も登録されており、資格は更新制でないため、実際にどれぐらいの建築士が仕事をしているのかは、監督官庁の国土交通省でも把握できていない状況です。さらに建設業者数も大臣免許、知事免許合わせて60万業者近くいるのです。

個人住宅の建築でも、おカネはいくらかかるか判りませんが、設計は日本を代表する建築家の安藤忠雄先生に、施工はゼネコン大手の鹿島に発注することも可能ではあると思いますし、積水ハウスなどのハウスメーカーに依頼しても良いですし、地場の工務店に発注することもできます。発注先の選択肢はピンからキリまで数限りなくあります。

そして、家づくりが成功するかどうかは、発注先の選定でほぼ決まってしまうと言って過言ではありません。一般消費者の方も、それを判っているからこそ、雑誌やネットなどで数多くの情報を集め、多くの専門家に相談し、ハウスメーカーの営業マンからの提案や建築家のプレゼンテーションに耳を傾け、膨大な時間を発注先の選定に費やすのです。

これだけ発注先の選択肢が数限りなくあって、様々な建築事例も至るところにあるのに、発注先を選定するための客観的なデータが非常に少ない。建材の値段は定価の「半値八掛け二割引」が当たり前と言われるほど不透明で、価格ドットコムのようなサイトでも絶対需要が小さいためか、建材価格だけはあまり情報が出ていません。見積価格に対する信頼感も高いとは言えない状況です。

このような不透明な市場環境を放置したまま、建築確認検査制度などの規制を強化することで「建物の安全性を確保する」と言われても、消費者からの信頼回復はとても難しいのではないかと思うのです。

 

以前から疑問に思っていることですが、日本の社会が急速にIT化、ネットワーク化を進めているなかで、建築分野のIT水準はせいぜい図面をCAD(コンピュータ支援による設計)システムで作成するとか、構造計算をコンピュータで行うといったスタンドアローンのレベルにとどまっていて、ネットワーク化がほとんど進んでいないのは、なぜなのでしょう。

もちろん、ネットワーク化するインセンティブが働かなければ、IT投資も行われないことは承知していますが、そうした制度設計を行うことこそが、建築行政のあり方だと思うのです。

2001年から政府は、電子政府・電子自治体を推進し、国レベルの申請・届出手続きの96%がオンライン化されようとしている時代に、なぜ建築確認申請だけはオンライン化から取り残されている状況になっているのでしょうか。

確かに、業務そのものは民間開放されているわけですが、建築確認申請そのものは国が義務付けているのですから、国が音頭を取ってオンライン化することも可能でしょう。ちらちらと話題に上ることはあるのですが、積極的に推進しようという動きが全く見られないのです。

建築確認申請がオンライン化されれば、何ができるのでしょうか。

申請データは基本的に電子化されますから、現在、都道府県や地方自治体が行ってきた建築確認業務を、処理センターを作って集中処理できるようになります。熊本県のように構造計算の専門家がいないから、チェックが十分にできなかったといった問題も解消され、提出された構造計算データをチェックプログラムに通すだけで、自動的に確認することも可能になるでしょう。

現在は、紙で提出されているので、保管場所の問題などで5年しか保存されていない建築確認書類も、電子データにすれば10倍の50年程度は保管できると考えられます。そうなれば、建築から解体・廃棄までを追うことも可能になるでしょうから、アスベスト問題や東横インの建築物不正改造問題のような問題が発生しても、すぐにデータを検索して対応できるようになるはずです。

最も重要なことは、集められたデータを解析することで消費者に対してさまざまな客観的なデータを示すことが可能になるというのとです。それを可能にするには、法改正も必要にはなると思いますが、建築物を重要な社会ストックと考え、資産として市場流通させていくには必要な社会インフラではないのでしょうか。

 

少子高齢化の進展で制度改革に迫られている医療分野では、医師会などの強い反発を押し切ってレセプト(診療報酬明細書)データの完全オンライン化を2011年までに実現することが決まりました。完全オンライン化によって診療報酬データを解析できるようにし、医療費の適正化を実現しようという試みです。

医療分野では、EBM(事実に基づいた診療)データベースの構築や、DPC(急性期入院医療の包括評価)方式の導入、セカンドオピニオンを受けやすい仕組みづくりなど、医療の透明性を高めるために、さまざまな試みが導入されようとしています。

医療分野の場合は、医療費削減という国民全体のメリットがあるのでオンライン化を推進しやすい状況にはあります。一方、建築の場合は、供給サイドの負担が重く、消費者サイドのメリットもすぐには見えないかもしれません。それでも、建築確認申請のオンライン化を突破口にして、建築全体のIT化を促進し、建築市場の透明性を高めていくことが絶対に必要なことだと思うのです。
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