A-Style 家づくりの経済学  80
家づくりの経済学
 
家づくりの経済学(80) 建築行政のあり方について(1)

耐震強度偽装問題をきっかけに議論が始まっている「建築行政のあり方」について考えてみたいと思います。この連載コラムは、一般消費者を主な読者として想定しているので、本当はそこまで深入りするつもりはなかったのですが、どうしても気になる点があるものですから、もう少しお付き合いいただければと思います。

 

国土交通省の社会資本整備審議会建築分科会から2月24日に「建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について」の中間報告が公表されました。有識者や専門家による検討を経て、建築物の安全性を確保するために必要な対策が盛り込まれたわけですから、一介のジャーナリストが具体的な対策について論評することもないのですが、率直な感想を言わせていただくなら、こんな質問を投げかけたいところです。

「誰のための建築行政を目指しているのですか?」

以前から疑問に思っていることですが、建築行政は供給サイドと需要サイドのどちらに重点を置いてきたのか、ということなのです。どう見ても供給サイドの方に顔が向いているのでは?と感じていたのですが、今回のような耐震強度偽装問題が発覚したことで、国民もそうした印象を強く持ったのではないでしょうか。

建築基準法の第1条には、以前にも引用したように「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする」と書かれているわけですし、行政とはもともと「国民のため」に行われているのだから、建築行政も当然「国民のため」に行われているという反論が返ってくるかもしれません。

しかし、中間報告を作成した審議会の建築分科会基本制度部会のメンバー26人をみても、圧倒的に供給サイドの人たちばかりです。部会長の村上周三慶大教授は日本建築学会会長、部会長代理の久保哲夫東大教授も建築学専攻で、大学の先生8人の構成は建築学4人、行政学2人、不動産学1人、情報学/安全学1人。その他の委員も、建築士系5人、施工業者系4人、不動産系1人、建設労働系2人、損保系1人、東京都都市整備局長など行政機関3人に、NPO法人全国マンション管理組合連合会、(独)国民生活センター、弁護士(元日弁連住宅紛争処理機関検討委員会委員長)が加わるという構成です。

メンバー26人を大学の先生も含めて勝手に色分けしますと、需要サイド3人、行政サイド5人に対して、供給サイド18人。部会の様子は取材したわけではなく、中間報告を読んだだけの印象ですが、これで建築行政の「基本制度」をつくろうというのですから、建築行政のあり方が本当に「国民のため」なのかと疑いたくなるのは私だけでしょうか?

 

このコラムでは、消費者に対しても、建築主としての責任と自覚を持つ必要性を強調してきましたが、それは建築主としての「モラルハザード」を招くようなことはあってはならないという思いと、現実問題として供給サイドに偏った制度設計になっている以上、建築主は「自己防衛」策を講じざるを得ないと考えているからです。

本来ならば、制度設計から見直すべきところですが、自ら変わることはどの世界でも難しいことですし、一筋縄でいくような話でもありません。需要(消費者)サイドの意識が変わることで、日本の建築の基本制度そのものが徐々に変わっていく以外に解決策は簡単には出てこないようにも思われます。

日本の建築生産システムは、建築主が自ら「つくる」のに適したシステムで、建築物を「買う」ことを想定した制度設計になっていない—とも述べてきましたが、少々、誤解を招く表現だったかもしれません。正確に言うと「プロ建築主」にとって都合の良いシステムという意味です。

ここで言うプロとは、不動産会社や自社にインハウスエンジニアを抱えている東京電力などの大企業、そして技術官僚を抱え続けている国土交通省営繕部などの行政機関を指します。建築主自らが設計者や施工業者の技術力を評価できる能力を持っていて、工事の監理もできるわけですから、建築確認がズサンでも、現場検査の回数が少なくても、建築士の罰金がわずか50万円でもほとんど問題はなかったのです。

これに対して、一生に一度だけ建築主になるような一般消費者はいわば「素人建築主」で、建築物を「買う」購入者の立場に近い建築主です。そうした素人建築主の立場で見れば、現行の建築生産システムはかなり不親切なシステムであるのは間違いありません。

しかし、素人建築主は、一生に一度、建築主になる人が大半ですから、いくら使い勝手が悪いと感じても「制度設計を見直せ!」といった要望にまではならない。結局は、プロ建築主と供給サイドにとって都合の良いシステムが維持されてきたと言えるのかもしれません。

 

ようやく最近になって、証券市場も、プロの投資家ばかりの世界から、個人投資家が増えてきて、このコラムでも第77回で紹介した投資サービス法のような消費者保護のための制度が検討され始めました。建築の世界も、これまではプロ建築主だけを相手にした制度設計になっていたのではないかと思うのです。

もちろん建築物の流通システムとして、宅地建物取引業法に基づいた仕組みが整備されており、そのなかで消費者保護のあり方も検討されてきました。しかし、結果的には流通段階の規制が加わっても、今回のような偽装マンションの販売は防げなかったわけですし、いわゆる欠陥住宅問題や悪質リフォーム問題が解決したわけではありません。

今通常国会に提出される予定の「住生活基本法」(このコラムでは約1年前に「住宅基本法」の名称で紹介した法律です)では、既存ストックを有効活用して中古住宅市場を活性化しようとしているわけですが、素人建築主が建てた中古住宅もストックとして活発に流通させていこうとするならば、生産段階で素人建築主でも不適格業者を排除しやすいような仕組みを導入しておくことが必要ではないでしょうか。

「家は人生において最も高い買い物」—コラムでは、家を単なる住居として考えるのでなく「資産」として捕らえる発想の転換を提案してきました。家を持つことは「買い物」であるのと同時に、「投資」でもあるわけです。そうであるのなら「建築物」も投資商品としての情報開示がされるべきであり、消費者が客観的な判断ができるだけの情報提供が行われ、消費者保護のための仕組みも含めて透明性の高い市場を整備していくことが「建築行政のあり方」ではないかと思うのです。

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