住宅リフォーム問題は、「医療」との対比で論じられることが少なくありません。コラムでは自動車の点検・整備と対比しながら、住宅リフォームを考えてきましたが、長期間に渡って維持・管理するときの手法は、対象が異なっていても共通している部分は多いのです。健康管理を考えてみても、少なくとも年に1度は「健康診断」を受けている人がほとんどでしょう。体調を崩したときには、いつも行く“掛かりつけ”の病院や「主治医」を決めている人も多いと思いますし、そこには自分の身体の状態を記録した「診療録(カルテ)」が保管されています。「健康診断、主治医、診療録」の3点セットは、健康管理の基盤として確立した仕組みと言えます。改めて医療、自動車、住宅について維持・管理手法を比較して、次のように整理してみました。
こうしてみると、戸建て住宅にはきちんとした定期点検のシステムが確立されていないことは明らかです。最近では、アフターサービスの一環として定期点検サービスを提供しているハウスメーカー・ビルダーも増えているようですが、10年、20年“放ったらかし”という人も少なくないのではないでしょうか?自分の家の状態がどうなっているのかを全く判ってなさそうな居住者のところに、何の資格も持っていないような営業マンが来て勝手に住宅診断する。「土台が腐っている」と言っても、居住者に反論できる材料がないことが判っているので、強圧的にリフォーム工事契約を迫ってくる。そんな卑劣な手口を許してしまう状況を招いていたわけです。国土交通省では、住宅リフォームの推進と、消費者からの相談や紛争処理支援を行う機関として「財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター」を設置して、住宅リフォーム問題に取り組んできました。インターネットを通じてリフォームに関する情報を提供する「リフォネット」を運営しているほか、85年から「増改築相談員」制度を設けてリフォームに関する相談を受け付けています。業界団体も大同団結して2000年に住宅リフォーム推進協議会が設立されており、協議会の法人会員である有限責任中間法人日本増改築産業協会(略称・ジェルコ)では、「ジェルコ住宅診断員制度」という有資格者制度を設けています。また社団法人建築・設備維持保全推進協会(略称・ベルカ)では、マンション向け診断サービス「マンションドック」を提供し、有資格者制度「ビルディングドクター」も実施しています。業界側でも、消費者が「まずは自分の家の状態を把握する」ための環境を整えようとしてきたわけですが、ここで考えなければならないのは検査の目的です。医療でも、定期健康診断で行う検査と、手術(リフォーム工事)の前に行う検査とでは目的は異なっており、定期健康診断の目的は“予防”や“早期発見”です。長い間、放ったらかしのままだった家を、直前になって専門家に相談しても、必要なリフォーム工事はせざるを得ません。複数の業者に見てもらえば、医療のセカンドオピニオンのような効果は得られるとは思いますが、医療と異なってその対価を支払う人が少ない現状ではあまり効果は期待できないように思われます。準大手ゼネコンの前田建設工業が、数年前から「なおしや又兵衛」というブランド名で小口修繕サービス事業を開始しています。現在は全国規模で店舗展開しているセブンイレブンやドトールコーヒーなどの法人向けビジネスがメーンですが、そこに導入されたのが「メンテナンス・エンジニアリング」という新しい考え方でした。セブンイレブンの店舗には、年3回の定期点検サービスと、コールセンター受付の緊急修繕サービスを提供していますが、それによって維持・修繕費用を削減する効果が得られていると言います。健康診断による予防効果で、医療費負担の軽減が期待されるのと同じと言えるでしょう。なおしや又兵衛にとっては、セブンイレブンの店舗が増えなければ、年々売上高が減少していくことにもなります。しかし、建物のメンテナンス情報に基づいて、より付加価値の高いリフォームを提案することで、受注拡大につなげるという戦略的なビジネスモデルなのです。住宅リフォームでも、詐欺の横行を許すような前近代的な仕事のやり方から、メンテナンスをエンジニアリング(工学)的な視点から体系化した近代的な手法へと転換を進めていく時期に来ていると思うのです。