A-Style 家づくりの経済学  51
家づくりの経済学
家づくりの経済学(51) 耐用年数の話(2)
「10年ぐらい経ったら、安全に底が抜けてくれるような自動車が作れたらなあ…」—もう10年ぐらい前になりますが、自動車担当記者のころ、経営不振が続いていた日産自動車の首脳が、冗談めかしにそんな本音を漏らしたことがありました。その言葉を聞いたのは、1度だけではなかったので、当時はよほど苦しい経営状態が続いていたのでしょう。
ご存知のように、国内自動車市場も、九〇年代に入ると成熟化が進み、右肩上がりで販売台数が増える状況ではなくなりました。そうしたなかで、国内の新車販売を伸ばそうとすれば、「セカンドカー」需要を掘り起こすか、「買換え」需要を促進するか、2つの方法しかありません。
ところが、バブル崩壊で消費者の財布のヒモも締まり、以前なら「次の車検でそろそろ買い替えを…」と言えば買い換えてくれた消費者が「まだまだ乗れるから車検を通すよ」と言い出したというわけです。
日本メーカーも、欧米メーカーに追いつけ、追い越せで、自動車の性能、耐久性の向上に取り組んできた結果、10年ぐらい乗ってもビクともしない日本車が作られているようになっていました。それだけに、消費者に「まだまだ乗れる」と言われれば、自動車ディーラーの営業マンも返す言葉がなかったと思います。
もし、品質・耐久性で問題が起これば、三菱自動車工業のようなことになるわけですから、一度上げた品質・耐久性を落とすことなどできるはずはありません。そう判っていても、ある一定の期間で“耐用年数”が来るような自動車を作ることができれば、「新車の買換えを促進しやすくなるのに…」と思わずにいられなかったのでしょう。

では、住宅の耐用年数は、どうなっているでしょうか?この連載コラムでも、日本の住宅の平均寿命が欧米に比べて短いことを紹介しましたが、10年ぐらい前の統計で平均需要は26年。その後の暫定値でも30年。つまり統計的には木造戸建て住宅の耐用年数は30年程度ということになります。 まだまだ、欧米に比べれば短いですが、日本の住宅の耐用年数も着実に伸びていると言うことはできるでしょう(自動車のような工業製品と違って、施工品質にバラツキがあるので、全てに当てはまるとは言い切れませんが…)。ハウスメーカーの中には、「100年住宅」といったキャッチフレーズで、品質・耐久性をアピールするところも出てきています。
「100年住宅」が、本当に100年間、住み続けられるかどうかは100年後になってみないと判りませんが、法隆寺を筆頭に日本にも古い木造建築はたくさん残っているわけですから、100年間住み続けることが不可能ではないでしょう。
しかし、いくら「100年住宅」だと言っても、何の手入れや補修もせずにメンテナンスフリーで100年間も住み続けられるとは考えられません。さらに住宅の各部位や設備の耐用年数が同じであるはずはなく、雨ざらしになる屋根や外壁、床や土台、さまざまな住宅設備ごとに、メンテナンスしていくことが不可欠です。

3年ほど前、ある住宅リフォーム関係の業界団体の依頼で、大手の住宅設備メーカーやハウスメーカーなどの幹部による座談会をまとめる仕事をしたことがあります。
座談会の司会をしていて印象に残った話題が、どのメーカーも顧客データベースをつい最近まで構築していなかったこと。新築住宅に設備を納入したら、それでお終い。「また、何年後かにはリフォーム需要が発生する」といった発想をほとんど持っていなかったようなのです。
それもそのはずで、わずか26年しか日本の住宅の寿命はなかったのですから、リフォーム需要が発生する前に家が取り壊されてしまう。住宅の各部位や設備ごとに耐用年数が異なっていて、それぞれに維持・補修が必要であることを意識する必要がなかったのかもしれません。
「住宅設備メーカーは、自分たちの製品がどれぐらいの期間で取り替えられているのか、リフォームに関する詳しいデータを持っていないはずだ」—。ある大手ゼネコンの技術者もそう指摘していました。最近まで顧客データベースすら持っていなかったわけですから、いつ製品を納入して、何年後にどのような状態になって廃棄、リフォームされたのか。そうした情報を持っていなかった可能性は高いと思われます。

この連載コラムでは、“居住コスト”という考え方を提案してきました。それに基づいたシミュレーションでは、維持管理費用として月1万円程度を加算してきましたが、本当に月1万円程度で良いのかどうかは「判断はできない」というのが正直なところです。
外壁の塗装は何年ごとに塗り替えたらよいのか。屋根の補修はどうか。システムキッチン、浴槽などの水回り設備、給湯・暖房設備などはどうするか。内装のクロスやカーペットの張り替え時期はいつごろか。家の手入れの仕方によって、維持管理費の金額も大きく違ってくるからです。
さらに新築時に、どのような材料や製品を使用したかによっても、維持管理費用も異なってくると考えられますが、耐用年数を含めて目安となる客観的なデータがほとんど提供されてきませんでした。そうした状況で、維持管理費用を計算すること自体、無理があったわけです。
これまでのように、築20年で資産価値がゼロになってしまうような家であれば、経験則として維持管理費用がいくらぐらいかかるかといったデータを持っているゼネコンや工務店があるかもしれません。
しかし、40年、60年と住み続けて資産価値も維持しようとするならば、維持管理のやり方や費用もこれまでと変えていく必要はあるでしょう。そのためにも、維持管理のための客観的なデータを整備して、一般消費者にも判りやすい標準的なメニューを作成。それに基づいて実施された維持管理が、資産査定にも反映される仕組みを構築していく必要があると思うのです。
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