A-Style 家づくりの経済学  45
家づくりの経済学
家づくりの経済学(45) 家計に占める居住コストの割合は?(5)
あるテレビの情報番組を見ていると、いま住んでいる住宅の資産査定を行うコーナーがありました。住み替えを希望している人の住宅が、いくらぐらいで処分できるのかを不動産業者が査定するという内容です。
たまたま見ていると、こんなケースが放送されていました。ボードに書かれていた物件の概要は、「東京近郊の●●市にある一戸建て住宅」「購入時の価格は3600万円」「築8年」「90平方メートル」。 90平方メートルが敷地面積なのか、延べ床面積かは見落としてしまいましたが、容積率100%の第1種住専地域であれば敷地と床面積はほぼ同じぐらいでしょう。最寄り駅からの距離は徒歩10分程度のようでした。
テレビの査定人が地元の不動産業者などにも調査して出したという査定結果は、購入時の半額の「1800万円」。居住者の方が、ポロリと「まだローンが 2800万円も残っているのに…」ともらしていましたが、明らかに「担保割れ」の状況です。それを聞いたテレビの出演者も「もう住み続けるしかないね」とのコメントを言うのが精一杯。

それにしても、どうしてこのような結果になってしまったのでしょうか?
購入当初の建築費が坪単価45万円ぐらいと仮定すると、建物で1200万円、土地は残りの2400万円で、坪単価は90万円ぐらいという計算です。●●市は都心から電車で45分ぐらいのところですから、金融機関の不良債権処理が本格化する直前の8年前だったらそれぐらいはしていたのでしょう。 現在の資産査定方法では、中古住宅の価格は築20年でゼロと査定されてしまいますから、築8年でほぼ半分の600万円ぐらいでしょうか。土地の査定額は残りの1200万円で、坪単価は購入時の半額の45万円ということになってしまいます。査定人が「いまでは新築で倍の広さの物件が買える」とコメントしていたので、地価は半分以下に下がっているかもしれません。
購入時に頭金2割を用意していたとすれば、ローンの融資額は2880万円のはずですから、8年経っても残高が2800万円なら、頭金は1割程度で購入していたのでしょう。仮に融資額3200万円で、35年ローンを組んだとすれば、金利が当初10年固定3.0%、ボーナス併用なしで月返済額は12.3万円。年間返済額も150万円ですから、【定説2】に当てはめて返済負担率を上限の25%だとすれば、年収600万円の方でもローンを組めるわけですから、十分にローンを返済できると考えて物件を購入したのかもしれません。
このケースでは、【定説3】の頭金を2割用意したとしても、地価の下落幅があまりに大きいために「担保割れ」は避けられないことになります。いくら【定説】を守って賢い資金計画を立てたところで、地価が大幅に下落すれば、当然のことながら身動きが取れない状況に陥ってしまうのです。 さらに、前回少し触れたリバースモーゲージを将来利用したいと思っても、土地の評価額が2000万円を大きく下回ってしまうと、5000万円以上を対象としている民間金融機関はもちろん、公的機関の制度も利用が難しくなってしまい、残念ながら資産としては損切りして売却する以外にないと考えられます。

今回のシリーズ「家計に占める居住コストの割合は?」では、話が飛んで判りづらい部分があったかもしれません。改めて話をまとめると、次のようになります。
1) 年金問題などが示すように家計に占める社会保険料などの割合が上昇し、家計の負担は確実に重くなる方向となっている。(1)
2) 過去の住宅取得に関する【定説】は、家計に占める返済負担率をベースに、35年ローンを組んだ場合の住宅取得資金の最高額を前提としてきた。(2)
3) 終身雇用・年功序列が崩れた現在、家計の健全性を維持できるかどうかは不透明で、定年退職までに無理なく住宅ローンを完済することがリスク低減につながる。(3)
4) 無理のない住宅ローンで調達できる資金の範囲で行う住宅投資では、優良な住宅ストックの形成が難しくなる懸念もある。(3)
5) 長期ローンを前提とした住宅取得を今後とも可能にするには、住宅を資産として売却・運用しやすい市場環境や、高齢者が安心して住まいを確保できる環境の整備が不可欠だが、現状では難しい。(3)
6) 従来の住宅取得は、土地の「取得コスト」と「居住コスト」を区別せずに行われてきた。(4)
7) 住宅取得も、今後は「居住コスト」をベースに考えるべきであり、土地の「取得コスト」は貯蓄や株式投資で運用するという選択肢もある。(4)
8) 土地への投資は、地価変動リスクを十分に考慮する必要があり、最悪の場合は自分の人生そのものが身動き取れない状態に陥ることもある。(5)

シリーズの(2)、(3)に登場してきたAさん一家。現在の年収750万円の返済負担率から逆算して35年ローンを組んで調達できる資金4000万円。何のためらいもなく、資金全部を投入して家づくりを行える環境でなくなりつつあるのは確かでしょう。
次回以降は、もう少し具体的なシミュレーションも交えながら、モデルケースを考えていきたいと思います。
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