A-Style 家づくりの経済学  43
家づくりの経済学
家づくりの経済学(43)家計に占める居住コストの割合は?(3)
自分の人生設計に合わせて、住宅ローンの返済期間はどのように設定すれば良いのでしょうか?
「できれば、定年退職の60歳までには完済したい」—先行き老後の不安が指摘される時代ですから、そう思っている方も多いでしょう。退職金の半分ぐらいは住宅ローンの返済に充てることを想定している方もいらっしゃるかもしれません。まだ若くて、もう一度ぐらい住み替え、建て替えを考えている方なら、いずれ売却するつもりでしょうから、迷わず35年ローンを組むつもりでいると思います。 私の実家の工務店に注文する建て主には、定年退職を迎え、退職金を使って最後に自分好みの家を建て替えようという方が少なくありませんでした。それだけ自己資金を使っても老後の不安のない方々だったのでしょう。

前回に登場いただいた年収750万円のAさん一家が、自己資金も800万円持っていて総額3000万円の住宅を取得するのであれば、住宅ローンの借入額は 2200万円で済み、返済負担率20%となる月平均12.5万円のペースで返済していけば20年弱で完済できます。繰上げ返済もせずに、定年退職までには住宅ローンからめでたく解放されるわけです。
老後の安心のため定年退職までの完済を優先して3000万円の住宅で我慢するのか?
それとも、35年ローンを組んで4000万円の住宅をつくる決断をするのか?
人生最大の買い物だけに、悩まれるところではないでしょうか?
もし、日本の住宅市場が現状のままで変わらないのであれば、「3000万円で我慢しなさい」とアドバイスする人がほとんどだろうと思います。「35年ローンを組んで4000万円の住宅を買っても大丈夫ですよ」とは、なかなか答えづらくなっているのは確かでしょう。私も発言に責任を問われる立場なら「大丈夫ですよ」とは、とても怖くて言えません。

前回のコラムでは、「35年ローンを前提に考えても『問題はない』と思うのですが…」と書きましたが、それはストック重視の住宅市場へと転換していくためには、長期ローンにも対応できるような市場構造を作っていく必要があると思うからです。
個人の責任で、定年退職までに払いきれる資金の範囲で、誰もが住宅をつくるようになってしまったらどうなるでしょうか?
地価がさらに大幅に下落して、建物部分に投資できる資金が増えることにでもならない限り、建物に投資する資金を削らざるを得ません。坪単価30万円以下の廉価な家を建てるか、地価が高い首都圏などでは敷地100平方メートル以下の狭小住宅にするか、いずれにしても“優良”と言える住宅ストックの形成が困難になってしまうと思うのです。もちろん、家づくりの生産コストや資材コストをさらに引き下げていく努力も必要ですが、それにも限界はあります。
中古住宅を購入してリフォームする場合、坪単価30万円以下の廉価な家でそれをするでしょうか?
資金的に考えても、取り壊して同程度の家であれば新築することが十分に可能であるのなら、リフォームなどせずに自分の好きな間取りやデザインで建て替えてしまう人がほとんどだと思うのですが、いかがでしょう。結局、安い使い捨てのような住宅を作っては、短期間でスクラップ&ビルドを繰り返していく、地球環境問題を無視したような家づくりが続いていかざるを得ないのです。

「それでは、個人がリスクを背負って、優良な住宅ストックとなるような家づくりをしなければならないのか?」—もちろん、そう言っているわけではありません。60年、80年、100年と住み続けられる優良な住宅を、個人の資金力、財力にだけ頼って作っていくことはやはり難しいと言わざるを得ないでしょう。
だからこそ、資金力と信用力の高い40歳代、50歳代の人たちが、安心して35年ローンを組んで優良な住宅に投資できる環境をつくらなければ、日本の住宅ストックが充実し、魅力のあるものにならず、むしろ劣化していく懸念があると思うのです。

こうした問題を解決することは、簡単なことではないでしょう。私自身は、そのシナリオが見えているわけではないのですが、最後に変えなければならないのは、居住者=消費者の意識ではあるでしょう。
「定年退職までに住宅ローンを完済したい」と考えるのは、定年退職までに「家を完全に自分の所有物にしたい」という強い意識の表れでしょう。 なぜ、そう考えるのか。老後に住む家の心配することもなく、終の棲家として住み続けられる場所を確保しておきたいという防衛本能のようなものだかもしれません。
しかし、経済的な観点でみれば、60歳の定年退職時に、住宅ローンが残っていたら困る、退職金もできるだけ使いたくない。そうであるなら、答えは簡単であるはずです。その住宅を売るか、賃貸住宅として運用すれば良いのです。
ところが、現実問題として、その住宅を売却したあと、老後に安心して住み続けることができる賃貸住宅を簡単には借りられない状況があります。
売却するにしても、減価償却費以上の損失が発生したり、最悪の場合、残っていた住宅ローンを売却代金で完済できなかったりするリスクがないとは言えない状況です。
もし、この2つが解決できれば、居住者の意識も大きく変わっていくのではないでしょうか?地価上昇時代も終わり、終身雇用・年功序列賃金時代も終わった今、35年ローンで住宅投資を行う消費者個人のリスクを、低減するための施策が求められていると思うのです。
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