A-Style 家づくりの経済学  40
家づくりの経済学
家づくりの経済学(40) エスクロー制度(4)
「第三者が評価できる家づくり」—これを日本の社会に定着させていくことは、そう簡単なことではありません。日本ではこれまで、相手を信頼して「お任せ」スタイルで、仕事を依頼するやり方が浸透しており、仕事を依頼する側も、請ける側も、そうしたやり方に慣れてしまってきたからです。
何か問題が発生した場合、発注者側は責任を全て相手に押し付けやすく、受注者側はそうしたリスクを織り込んで高めの価格を請求する。そうした暗黙の了解による微妙なバランスの上に成り立ってきたのが「善意の上に成り立ってきた家づくりシステム」であるわけです。

イラクでの人質事件のあと、突然“自己責任”論が巻き起こり、被害者であるはずの人質の方々へのバッシングが行われました。
日本も、それほど自己責任を求める社会になったのなら、家づくりにも「発注者責任」が求められても良さそうなものですが、そうした議論はタブー扱い。欠陥住宅は、あくまでも請負業者側の責任であって、そんな不良業者に発注した消費者の責任を問えば、それこそバッシングの対象になるのは間違いありません。
「なぜ、日本のIT企業が育たず、国際競争力が弱いのか、という原因を探っていくと、『日本のユーザーが賢くないから』という結論にならざるを得なかった」—先日、経済産業省のキャリア官僚を取材していると、そんな話が出てきました。
ユーザーはITのことが良く判らないから、大手IT企業に丸投げする。しかし、出来上がったシステムの品質・性能を的確に評価できる能力もないから、いい加減なもの高い値段で買わされても判らない。結果、日本のIT企業は、賢くない日本のユーザーを騙すことはできても、世界市場に出て行っては戦えない。
なんとも、情けない話なのですが、それでも「ユーザーが賢くないから」ということを表立っては言いにくいのが日本の社会です。
「事故を起こしたのは、ユーザーの運転が悪かったからではないのか」—自分の責任を棚に上げて、そんなことを平気で言ってきた三菱自動車のような企業があったからかもしれませんが、そうした責任の曖昧さを解消するためにも、「第三者が評価できる」仕組みが必要になっていると思うのです。

すでに二年ほど前から、エスクロー制度を使った住宅金融サービスがいくつか登場し始めており、新しい仕組みを根付かせようとする挑戦が始まったところです。残念ながら、消費者の反応はまだ鈍く、苦戦が続いているようですが、興味がある方はインターネットなどで調べてはどうでしょうか? エスクロー制度を活用した家づくりシステムは、各社のサービスによって細かな部分で違いはありますが、おおよその仕組みは次のようになります。
① エスクロー(会社)が中立的な専門家に依頼して設計図面をチェック。
② エスクローも加えて、発注者と工務店が工事請負契約を締結。
③ 発注者がエスクローを通じて損保や保証会社に、工事完成保証、瑕疵保証などの保証を依頼。
④ 発注者が金融機関と住宅ローン契約を結び、金融機関は早期融資を実行。
⑤ 発注者は自己資金と金融機関からの早期融資を、エスクロー口座に預託。
⑥ エスクローは中立的な検査機関に依頼して施工品質をチェックするとともに、工務店からの出来高請求の内容をチェック。
⑦ 出来高に応じてエスクロー口座から工務店や資材メーカーに支払いを実行。

⑧ 竣工後に、竣工検査、引渡し、エクスロー口座の会計監査、不動産登記、担保設定などの手続きを経て、家づくりが完了。

一見すると、複雑なように感じますが、発注者が細かな資金管理や施工の履歴管理を行うわけではありません。もちろん、エスクロー会社に対して手数料を支払う必要がありますが、問題はそのコストに対して得られるメリットを消費者がどう判断するかでしょう。
「エスクロー制度を使って、消費者に何のメリットがあるかが、よく判らない。エスクロー会社を利用するにも費用がかかるのなら、従来のやり方で良いよ」—まだ多くの方は半信半疑かもしれません。
本当に優秀な建築家と工務店に仕事を依頼できたのなら、エスクロー制度と出来高払い金融を利用する場合と利用しない場合とで、完成した家の出来映えに差が生じるわけでもないでしょう。コスト管理もキチンと行われて、建築コストにも大きな差異は出ないと思われるからです。
しかし、本当に優秀な建築家と工務店であれば、エスクロー制度と出来高払い金融にも十分に対応できるはずでです。消費者にとって、業者選定リスクが非常に大きいわけですから、こうした透明性の高いシステムに対応できるかどうかを、建築家や工務店を選ぶ基準として利用することも可能ではないかと思うのです(手抜き工事でボロ儲けしようとしている業者なら、絶対に嫌がるはずですから…)。
「第三者が評価できる家づくり」は、将来的な資産価格やメンテナンス費用にも良い影響を及ぼす可能性があります。現時点では具体的に証明することは出来ませんが、住宅ストックを有効に活用できる住宅市場を構築し、私がコラムで述べてきた『居住コスト』を引き下げていく必要があるがあるでしょう。年金改革法案の強行採決の様子を見て、そのことを改めて強く思ったのです。
筆者にメールを送信する