A-Style 家づくりの経済学  39
家づくりの経済学
家づくりの経済学(39) エスクロー制度(3)
家づくりを具体的な形にしていくうえで、もっとも重要な作業はキチンとした設計図面を作成することにあります。
「この設計図面どおりにキチンとした施工を行えば、品質・性能が優れた家が間違いなく完成する」—そう客観的に評価できるような設計図面でなければ、そもそも良い家が建つはずはありません。図面がいい加減でも、職人がしっかりしているから良い家が建つと言えるような時代ではないのです。
キチンとした設計図面を作成したうえで建築確認を取得し、“工事完成保証”を付けられる施工業者に工事を発注して、キチンとした施工管理と第三者による検査を実施する— そうした正しい「プロジェクトマネジメント(PM)」に基づいた家づくりが行われれば、欠陥住宅が発生するリスクをゼロに近づけることは可能であり、品質・性能に優れた良い家が間違いなく完成することになります。

「そんな面倒なことを考えなくても、自分が信頼できると判断した建築家や施工業者に依頼すれば、間違いなく良い家は完成するんじゃないの?」—発注者がそう判断する分には、いわゆる“自己責任”ですから問題はないのですが、全く関係のない第三者である金融機関や投資家の立場なら、どう評価するでしょうか?
家が完成して担保設定できない段階では、信頼だけでは住宅ローンを提供する価値がある家とは考えないでしょう(施工業者が資金力のある大手ハウスメーカーであれば別でしょうが…)。投資家も、家づくりプロセスの透明性が確保されていて収益物件として投資対象となる家とは評価できないはずです。

金融機関では、PMが正しく実施されてリスクの定量化が可能なプロジェクトに対してプロジェクトファイナンスと呼ばれる融資制度を持っています。そうしたプロジェクトファイナンスの一分野として、大規模な建設工事における事業者の資金調達をサポートする「コンストラクションローン」を提供する事例も最近ではかなり増えてきました。
現在、東京・秋葉原で建設中の都市再開発プロジェクト「秋葉原クロスフィールド」では、プロジェクトを担当する大手ゼネコンの鹿島が「開発型証券化手法」という新しい金融の仕組みを使って工事着工前に、投資家から建設資金を調達しました。その仕組みはかなり複雑ですが、基本的には建設プロジェクトの内容を投資家や金融機関に開示し、リスク分担を明確にすることで、資金調達リスクを大幅に軽減することに成功したのです。

家づくりでも、考え方は同じ。家づくりの内容を金融機関や投資家にキチンと説明できるようなPMを実施することで、本来なら担保設定できなければ実行されなかった融資を前倒しして実行できるようにしようというわけです。
エスクローそのものは、基本的には非常に単純な仕組みだと言えます。しかし、住宅ローンを利用した家づくりにいざ適用しようとすると、家づくりのあり方をかなり根本から問い直す必要が出てきます。 「第三者が評価できる家づくり」—つまり、発注者や建築家、施工業者といった家づくりの当事者だけでなく、金融機関や投資家などの第三者から見ても評価できる家づくりを行うことが求められるのです。
第三者から見ても評価できる家づくりには、もうひとつ、大きなメリットがあります。将来、その家を売却することになった時も、第三者から資産評価が可能な家なるということです。現時点では、確かに中古住宅の資産価値は築年数だけで評価されている面がありますが、それは第三者から評価することができない家ばかりで、築年数でしか評価しようがなかったとも言えます。
もし、家づくりの段階から第三者が評価できるデータが残っていて、さらに住み始めてからも維持管理の履歴が残っているような家が増えてくれば、中古住宅の資産価値も正しく評価される時代が来るのではないかと思うのです。
エスクローを家づくりに適用するために、必要な条件を整理すると、次の3つがあげられるでしょう。
① 家が完成したときの品質や性能を、設計段階で客観的に評価することができる設計図面が用意されていること
② 万一施工業者が倒産するなど工事が続けられなくなった場合に、工事完成保証ができる仕組みが用意されていること。
③ 資金の流れや施工プロセスの透明性が確保されたPMや、第三者機関のチェックなど設計図面に書き込まれた性能・品質を実現できる仕組みが用意されていること。

もちろん、第三者でも評価できる家づくりは、発注者自身にとっても安心できる家づくりでもあります。エスクローという仕組みを使いこなしていくことで、従来の「善意の上に成り立ってきた家づくり」が、時代の変化に対応して「第三者が評価できる家づくり」へと転換していくことが期待されるのです。
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