A-Style 家づくりの経済学  37
家づくりの経済学
家づくりの経済学(37) エスクロー制度(1)
最初に、私の家づくりを手伝ってくれたKK君が設計に携わっていた「ポーラ美術館」が、今年の日本建築学会が選定する作品賞3作品のひとつに選ばれました。先月14日に正式発表され、ポーラ美術館は作品賞のほかに作品選奨12作品にも選ばれ、こちらには設計チームを統括した安田東工大助教授とともにKK君の名前も紹介されています。
作品選奨には、私もよく存じ上げている建築家、泉幸甫氏(家づくりの会)も住宅作品としては唯一選ばれていました。もともと私自身は経済記者で、建築家の人をそれほど多く知っているわけではないのですが、何とも喜ばしい気持ちです。お二人にはお祝いを申し上げたいと思います。

さて、本題に入りましょう。前回まで、出来高払いの必要性をクドクドと書かせていただきました。実はこの「エスクロー制度」を紹介するための前振りだったのです。
「エスクロー」—日本ではあまり馴染みのない言葉ですが、いまのところ「第三者預託」または「預託者」といった日本語訳が付けられているようです。なかなかピッタリした訳語がないので、政府など公的機関でも「エスクロー」という言葉のままで使用している状況です。

連載コラムのなかで「つくる」と「買う」の違いを説明しましたが、「つくる」場合には支払いと納品の間にタイムラグが生じるため「買う」場合に比べて様々なリスクが生じます。代金を前払いする場合、発注者側は約束したモノが納期までに引き渡されるかどうか不安になるでしょうし、後払いする場合は、受注者側は約束した代金が支払われるかどうかが不安です。さらに、その間の資金繰りも心配しなくてはなりません。
こうしたリスクを軽減する仕組みが「エスクロー」なのです。
基本的な仕組みはこうです。
まず、発注者は契約時点で、契約代金を信用力のある第三者=エスクロー(一般的には金融機関や弁護士など)に預けます。受注者は、エスクローが契約代金を預かったことを確認して商品を引き渡します。発注者は、商品が発注したものに間違いないことを確認したあと、エスクローが預っていた代金を受注者に支払って決済を完了します。

発注者にとっては、キチンと商品の中身を確認してから決済が実行されるので安心というわけです。もし契約内容と異なっているなど正当な理由があれば、エスクローに決済を停止させることができます。
もちろん、エスクローは中立な立場ですから、正当な理由もなく発注者が代金決済を停止することはできません。受注者にとっても契約通りに商品を納品すれば確実に代金を受け取れることになります。
つまり、エスクローが間に入ることで、発注者と受注者が対等な立場で代金決済が行われる環境が実現されることになります。

エスクローが米国で発達したのは、不動産売買など決済リスクが大きい取引を円滑に行うためのようですが、インターネットの普及によって増え始めた電子商取引の決済手段として幅広く利用されるようになったと聞きます。
インターネット検索のグーグルで「エスクロー」を検索すると、最初にヤフーオークションの自動車専用エスクローサービス「レジラ」がヒットしました。ネットでは、個人間の商品売買も可能になるわけですが、レジラでは代金の授受、車の輸送、名義変更手続きなどを行う仲介サービスを提供していると言います。
確かに、インターネットオークションの場合、個人の出品者の信用力を落札者側が判断するのは困難です。ネットオークションで購入したブランド物のバッグが偽物だった—そんな題材がしばしばテレビ報道などでも取り上げられますが、そうしたトラブルが発生するリスクは対面で行う場合に比べて高くなってしまいます。
偽ブランド品の場合は犯罪ですが、もしこの種の犯罪を未然に防止しようとするなら、エスクローを利用して、商品を受け取ったあと、すぐに専門家に本物、偽物を鑑定してもらい、偽物ならエスクローからの代金支払いを止める、というやり方が有効です。エスクローが「鑑定」付きでサービスを提供すれば、安心してブランド品の個人間売買もできるようになると思うのですが、いかがでしょう。

政府でも、昨年7月に策定したIT国家戦略「e-Japan戦略Ⅱ」で、エスクローサービスの基盤を整備するとの方針を打ち出しました。経済産業省が中心となって検討が進められていて、まだ具体的な動きは出ていませんが、そろそろ何らかの対策が講じられることになるでしょう。
一方で、国土交通省でも昨年から、住宅建設分野を中心にエスクローを導入する検討を始めました。すでに住宅分野でも昨年から民間のエスクローサービスが始まっており、国交省では、その有用性を改めて検証して普及していくための支援策が考えていくことになると思われます。 政府でもその重要性を認識するようになった「エスクロー」を、家づくりに適用すると、どのような仕組みとなるのか。その話は次回に。
筆者にメールを送信する