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家づくりの経済学
36
家づくりの経済学(36) 出来高払いの必要性(3)
家づくりは、経験して判ってくる部分が少なくありません。
私自身も4年半前に家を新築しました。その時は、まだ現役の新聞記者でゼネコンの不良資産問題や不動産証券化といった経済問題を追いかけるのが忙しく、「家づくり」について取材という形で本格的に情報収集する前のことでした。
年齢的に考えて、自分自身が家づくりに再挑戦するのは難しいかと思っていますが、一度は自分なりの経験をしたことで“発注者”の視点で取材できるようになったのではないかと思っています。 この連載コラムも、自分自身の経験がベースになっている部分もあるわけですから、少しは自分自身の「家づくり」を語る必要がありそうです。参考にならない部分も多いとは思うのですが、簡単に概要を説明しておきましょう。
自分自身の「家づくり」は、“門前の小僧、習わぬ経を読む”ではありませんが、大工の息子として聞きかじりの知識だけを頼りに取り組んだというのが実情です。以前に住んでいた中古で購入した一戸建て住宅を売却し、近くに売り出されていた更地を購入し、同時に家を新築しました。
設計者は、大学時代の同期、KK君。施工は、小規模な地場工務店のB工務店。たまたま信頼できる友人に設計できる人間がいたわけです。
ちょっと宣伝をしますと、自分が大学時代に在籍した意匠系のH研究室には、ブルータスなどにも何度か登場しインテリアデザイナーとしても知られている同期のKS 君、後輩には新宿のO-ZONEで開催された若手建築家展でも取り上げられるN君、住宅建築家の登竜門である吉岡賞を受賞したS君など多士済々が揃っていて、私の家の設計を担当したKK君も、日本最大の組織設計事務所、日建設計でデザイナーをしています。
昨年、箱根に完成したポーラ美術館の設計を手がけていたのですが、ちょうど一段落して少し余裕があった時期に「個人住宅の設計をやりたい」と意欲をみせるので依頼することになったのです。
もちろん、KK君のデザイナーとしての力量は評価したうえで、設計を依頼するのに当って出した一番の条件が「施工には、腕の良い大工を連れてくること」。
「住宅の品質を決めるのは、7割がたは大工の腕だ」—そう祖父や父から言われ続けてきた自分にとって、施工を誰に任せるかの方が懸案事項だったのです。
もし実家のある札幌市で家を建てるのなら、父に任せるのが最も安心なのですが、社会人になってから暮らし始めたさいたま市の周辺で、「腕の良い大工」の情報をゼロから集めるのは大変です。
私自身が探している時間はとてもありませんでした。
そこで「建築家のネットワークを使えば腕の良い大工を見つけてくることも可能ではないか」と思ったわけです。KK君が推薦したのは東京都文京区にあるB工務店でした。
あとから判ったのですが、B工務店は地元では結構知られた工務店のようです。大学の後輩に、東京駅の赤レンガ駅舎や日本銀行などを設計した明治の大建築家、辰野金吾の子孫で、建築事務所を経営するTさん(辰野家では金吾以来2人目の建築家)がいるのですが、B工務店は古くから辰野家出入りの業者だったとか(KK君はそのことを教えてくれず、あとでTさんがネタばらししてくれたのですが…)
家が完成した時には父も見に来てくれて「いい仕事をしている」と一言。デザインも施工も納得できる仕上がりとなりました。土地や資金などの制約条件もあって、満足できる家づくりはなかなか難しいわけですが、家そのものは合格点に達していると思っています。
しかし、住み始めてみて、反省点がいろいろ出てきました。とくに家の維持・管理に関することです。 建築家や工務店とともに家づくりを行う期間はせいぜい1年、2年のこと。しかし、家が完成したあとは、住む人間が何十年間も、家の面倒を見ていかなければなりません。
ハウスメーカーなどでは、家の定期診断サービスを提供しているケースもあるようですが、日常の手入れはどのように行ったら良いのか、どのタイミングで修繕したら良いのか、そうした判断は基本的に住む人間が行う必要が出てきます。
そうした家を維持・管理していくための知識を、家づくりに取り組んでいる間にもっとキチンと吸収しておくべきでした。建築家や工務店の技術者も、細かな部分までを全て把握しているわけではありません。ペンキ屋さんやクロス屋さんなど専門工事業者の人にも、いろいろな話を聞いておけば良かったと思うのです。
家も、自然素材を多く使ったり、デザインも凝ったりすれば、メンテナンスフリーの材料を使ったプレハブ住宅に比べて、維持・管理に手間がかかるのは覚悟する必要があります。私自身も、そのことは十分に認識していたつもりでしたが、実家では大工の父が絶えず細かなメンテナンスを行っていたので、その難しさを実感していませんでした。
何かあれば、すぐに工務店に連絡して来てもらわざるを得ないわけで、それが手間で家の面倒を見るのを怠れば、確実にみすぼらしくなりはじめ、資産価値も低下し寿命が短くなっていくことになります。
今になって思うのは、家の維持・管理に関する基礎を学ぶのは、まさに家づくりに取り組んでいる時だったのではないかということです。家の材料、施工、工種ごとのコストなどを把握していなければ、いざ維持・管理を始めたとたんに判断できないことだらけになってしまいます。
良質な家がつくられ、大切に長く住み続けられていく—そんな社会を実現していくためには、発注者=居住者の果たす役割はますます重要になるでしょう。コスト管理や材料選定など家づくりにもっと深く関わっていく必要性があると思うのです。
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