A-Style 家づくりの経済学  33
家づくりの経済学
家づくりの経済学(33)民間金融機関vs住宅金融公庫
最近、住宅金融公庫の「新型ローンが低調」といった記事を良く見かけます。昨年10月から本格的に販売を開始したものの、ほとんど売れておらず、住宅金融公庫としても本格的なテコ入れを図るといった内容です。 この連載コラムの中で、期待感を込めて住宅金融公庫の新型ローン=証券化ローンを紹介させていただいた責任上、改めて住宅ローン市場をめぐる最近の動向について解説することにします。

まず、基本的な問題意識を整理しておきましょう。
住宅ローンは、ある意味で人生最大の買物です。前回のコラムでも使用したケース年利4%の固定金利のローンで3600万円を借りた場合、元本+金利合計で6695万円を返済しなければなりません。当たり前の話ですが、土地+建物よりも高い買い物です。
金融機関からの融資も企業のように“もうける”ためのカネなら、借り手が金利変動リスクを取ろうと取るまいと自由でしょう。しかし、住宅ローンは住む場所を確保するための資金であって“もうける”ためのカネではありません。その住宅ローンが借りた後に、金利上昇で返済額が増えることなど本来はあるべきではないと思うのです(金融機関は自己責任だと言うでしょうが…)。
住宅ローンが返済困難になった場合も、せっかくのマイホームは手放さざるを得ないにしても、資産価格が下落して売却しても完済できずにローンが残ってしまう「担保割れ」は金融機関側の責任であるべきではないかということです。投機や資産運用の目的で土地・建物を買ったわけではない庶民がなぜ資産変動リスクを「保証料」を支払う形で背負わなくてはならないのか。何とも腑に落ちないのです。
土地が値上がりした時には恩恵を受けると思われるかもしれませんが、そもそも自分の家は単なる売り物ではありません。住み続ける限り、土地の値上がりは固定資産税の上昇や、将来的には相続税問題が深刻化するだけで、ほとんどメリットはないのです。

さらに、日本の住宅事情を考えたとき、質が高くかつ長く住み続けられる優良な住宅ストックを形成していく時期に入っています。地球環境の観点からも、わずか30年で取り壊されるような家をつくる時代ではありません。土地担保主義ではなく、優良な住宅ストックに対して融資が実行されるような仕組みが必要になっていると思うのです。
これらの視点から証券化ローンに大いに期待しているのですが、別に住宅金融公庫だから期待しているわけではありません。まだ立ち上がり当初ですから、証券化業務を民間が行うにはリスクが大きいので、住宅金融公庫に一苦労してもらおうというわけです。順調に動き出したら、いずれ証券化業務も民間に移管して住宅金融公庫を完全に廃止する手もあるでしょう。
ところが民間金融機関は現時点で証券化ローンを公庫の延命策としか見ていないようなのです。まずは公庫を完全廃止に追い込んでから証券化ローンに取り組むつもりなのかもしれませんが、重要なのは良質な住宅ストックや健全な住宅ローン市場の形成に向けてビジョンを明確化し、それを実現するシナリオを描くことではないでしょうか。

住宅金融公庫の「新型ローン」の販売が低調な理由は簡単です。日立キャピタルを中心に設立された住宅ローン専門会社「日本住宅ローン」などを除いて、ほとんどの金融機関が新型ローンを売る気がないからです。自ら直営販売店を持たず、融資業務を全て民間に委託してきた住宅金融公庫にとっては致命的な弱点を突かれてしまいました。
「これだけ自前の資金が有り余っているのに、わざわざ新型ローンを売る必要はないでしょう」。つい先日もある民間金融機関の融資企画担当者に会ったら、そう明言していましたが、売る気の無さは新型ローンの金利設定を見ても明らか。日本住宅ローンは金利2.89%と意欲的ですが、UFJ銀行3.80%、三井住友銀行は最も高い3.83%と1%近い開きがあり、公庫としても打開策を見つけるのに苦労するかもしれません。

1970年代に住宅ローン需要が高まったとき、銀行は当初、住宅金融専門会社(いわゆる住専)を相次ぎ設立して住宅ローン事業をスタートさせました。その後、80年代に入ると住専から顧客を奪う形で銀行自ら事業を展開。貸出先を失った住専は銀行の別働部隊として不動産会社やノンバンクなどに貸し込み、結果的に国民の税金で尻拭いをしたわけです。
バブル崩壊後は、民間金融機関の信用が急激に低下したことで大量の資金が郵便貯金へと流出。それと連動するように民間住宅ローンのシェアが低下し、この事態が“民業圧迫”と批判されていました。ようやく97年ごろから金融機関の不良債権処理が本格化して塩漬けになっていた資金も流動化。企業の資金需要が低迷するなかで、貸出先に困った民間金融機関は一斉に住宅ローンに目を向け、貸出競争が過熱してきたというわけです。
こうした歴史を振り返ってみると、民間金融機関が住宅金融公庫の直接融資を廃止に追い込んだあと、本当に消費者にとって望ましい住宅ローン市場を形成するつもりがあるのかどうか。もちろん証券化ローンも開発されたばかりで商品としての魅力がまだ十分ではない面もありますが、そのサボタージュ振りを見ていると、やはり一抹の不安を覚えてしまうのです。
1年ほど前に橋本龍太郎元総理にインタビューする機会がありましたが、総理時代に行った金融ビッグバンを振り返ってこんな感想をもらしていました。
「日本の金融機関にこれほど技術力(注)がないことが判っていたら、金融制度改革に踏み切っていなかった」。最近は、大手銀行のサラ金化がますます進んできた印象もありますが、大丈夫なんでしょうか。
注)インタビュー時点で、米国の金融機関が最先端の金融工学を駆使して数多くの特許を取得している一方で、日本の金融機関が保有する特許はゼロ。その後も、特許を取得したといった話はほとんど聞かない。
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