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家づくりの経済学
31
家づくりの経済学(31)「つくる」と「買う」(4)
「発注者自らが“つくる”ときの資金繰りを含めて建設プロジェクトを主体的にコントロールしていく。それが発注者本来の“あるべき姿”だと思うのです」—前回のコラムでは、そう書かせていただきましたが、なぜ、それが“あるべき姿”なのか。一口には、説明が難しいのですが、少し辛抱して理屈っぽい話にお付き合いください。
消費者がつくる時の資金繰りをなぜ、考えなければならないのか?立替払いでハウスメーカーや工務店に請け負ってもらえば良いのではないのか?大多数の方はそう思われるかもしれません。その方が消費者にとって面倒ではありませんし、品物を見てから代金を支払う後払いの方がリスクは小さいように思えます。
しかし、ハウスメーカーや工務店もタダでリスクを背負うわけではありません。その分コストに跳ね返っているわけで、いくら高くなっているかは消費者の目に見えないだけのことです。家づくりのコストで材料費の占める割合など、そう大きくはないわけで、むしろ家づくりの仕組みそのものに消費者はもっと注意を払う必要があるのです。
最初に、少しマクロ的な話をします。先日、大手ITベンダー、富士通の秋草直之会長と懇談する機会があったので、こんな質問をしてみました。
「最先端産業であるはずのIT業界も、最近はすっかりゼネコン業界と似てきましたね。聞くところによると、7次下請けまであるとか。ゼネコンよりひどいじゃないですか」。(秋草さんとは15年ぐらい前からのお付き合いなので、ざっくばらんな聞き方でしたが…)
それに対する答えはこうでした。
「発注者がカネを払ってくれないんだから仕方がない。いく技術力があるといっても中小のソフト会社が立替払いで仕事ができますか?こっちは、債務保証まで出してるんだから…」。
最近では、富士通やNTTデータなどを指す「ITゼネコン」という言葉もかなり知られてきましたが、大手ITベンダーがゼネコン化した原因はおカネであるのは間違いなさそうです。建設業界では代金の支払い条件として、前払い金や中間金といった慣習があることを紹介しましたが、IT業界には民間企業はもちろん、公共調達でも開発費の支払いに前払い金などの慣習ができず、後払いが一般的になってしまったのです。
当然、資金力のある大手に対して発注が集中し、中小はいくら技術力があってもなかなか元請けできない。大手ベンダーも、自前で開発するよりも、ピンハネして下請けに仕事を回し、下請け叩きした方が楽にもうけられる。そうして短期間の間に、建設業界以上の重層下請け構造が構築されてきたのでしょう。
これではコストが高くなるのも当然です。しかし、その責任は発注者にあるというわけです。何やら発注者に責任を押し付けているようにも聞こえますが、発注者が全てのリスクを元請け業者に押し付ければ、それがコストに跳ね返ってくるのは当たり前の話です。
建設業界では、公共工事を中心に前払い金、中間金の慣習が形成されてきたのは、下請け構造の重層化を防止するのが狙いでした。その代わりに建設業法には「一括下請負(いわゆる丸投げ)の禁止」を明記。建設業界において、ゼネコンや工務店などの元請け業者が非常に多いのは、こうした背景があるわけです。
請負ビジネスは、下請けが重層化しやすい体質があるのですが、コスト競争が厳しくなるなかで、ITネットワークを活用して組織のフラット化を進め、競争力を高めようという動きも出てきました。建築家や地元工務店を水平ネットワークで結んだアーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)もその1つと言えるでしょう。
ハウスメーカーなどの「買う」に近い家づくりではなく、“顔の見える”建築家や棟梁とともに家づくりをしようとお考えであれば、発注者の意識も「買う」から「つくる」へと切り替える必要があるでしょう。そうでなければ、すでに希少価値となりつつある腕の良い棟梁、大工は、そう遠くないうちに絶えてしまうかもしれません。
3年ほど前から、消費者が「つくる」ときの資金を調達しやすい仕組みづくりが進んでいるのをご存知でしょうか。これまでは前回紹介した住宅金融公庫の中間金融資制度ぐらいしかなかったのですが、今度は民間金融機関でも対応可能な仕組みです。 (財)住宅保証機構などが始めた「住宅完成保証制度」がそれ。前回のコラムの冒頭で、公共工事の請負契約において前払い金保証制度があるという話をしましたが、この仕組みを住宅建設にも適用したものと言えます。
基本的に金融機関は担保主義ですので、担保設定できなければ住宅ローンを実行しません。いくら住宅ローンの審査は通って工事契約が結ばれても、住宅が設計図どおりに完成して担保設定できる確約がないからです。そこで保証会社が、住宅の完成を保証することで、住宅金融公庫の中間金融資制度のように、完成前の融資を可能にしようというわけです。
住宅完成保証制度そのものは、前払い金保証制度のように、施行業者が倒産した場合に発注者が払った前払い金の損害や、工事を継続する業者を探して発注する追加費用を補償するもので、それによって住宅の完成が保証されたことになります。(財)住宅保証機構の住宅完成保証に加入していることを条件に、住宅金融公庫が中間金の早期受取制度(住宅融資の6割以内)を導入しているほか、民間でも伊藤忠商事系の保証会社「住宅あんしん保証」の住宅完成保証によってスルガ銀行、横浜銀行、広島銀行など地銀9行が早期融資に応じています。
こうした仕組みがあることを、新聞やインターネットでもほとんど見たことがないのですが、消費者にどれくらい浸透しているのでしょうか。そうした問題を消費者にあまり知らせないところに、何らかの意図が働いているように思えるのですが…。
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