A-Style 家づくりの経済学  30
家づくりの経済学
家づくりの経済学(30)「つくる」と「買う」(3)
突然ですが、公共工事の支払条件をご存知でしょうか?
日本の建設請負契約の支払い条件は、基本的に公共工事の契約内容がベースとなって形成されてきたと考えられます。国の直轄工事の場合、前払い金として工事費の4割が支払われ、残りは完了検査に合格してあとに支払われるのが一般的。大型工事の場合は、中間前払い金制度が適用されることもあり、前回のコラムで紹介した3分割方式とほぼ似たような支払い条件が適用されてきたわけです。
かつて金利が高かった時代には、4割もの前払い金を銀行に預けるだけでかなりの利息が得られたとも聞きます。この前払い金を使い切ってしまうと、今度は建設会社の持ち出しとなるわけですが、公共工事の請負契約書を金融機関に持ち込めば、間違いなく工事代金が支払われるとの前提で必要な資金を融資。公共工事に関しては請負業者が資金繰りに困らない仕組みが整えられてきたのです。バブル崩壊後、ゼネコンの経営危機が相次ぎ表面化するなかで、ゼネコンが公共工事の受注に血眼になって生き延びてきたのは公共工事が資金繰りの改善に大きく貢献するからでした。
このほかに公共工事には前払い金保証制度があります。4割もの前払い金を支払った請負業者が工事途中で倒産するなどのリスクに対応する制度で、北海道、東日本、西日本にある公的な建設業保証会社に対して、公共工事を受注した請負業者が保証料を支払って制度に加入。その請負業者が倒産して前払い金に損害が生じたり、工事を継続する業者の選定費用が必要になったりした場合には、発注者が保証会社からそれらの費用を受け取ることができる仕組みです。

さて、家づくりの資金繰りについて考えてみましょう。この連載コラムで何度も取り上げている土地2500万円、建物2000万円の総額4500万円の物件で、自己資金は2割の900万円とした場合、どうなるでしょうか?
発注者が所有する土地でなければ建物は建てられないわけですから、まず土地を取得する必要があります。土地の担保評価は一般的に土地価格の最大8割ですから、2500万円の土地を取得するのに、自己資金として500万円は必要になります。
引き続き請負工事契約を結ぶときには、2000万円の3分の1、650万円の前払い金を用意する必要がありますが、土地を取得して残りの自己資金は400万円。この時点で250万円足りない計算で、中間金は全く手当てできないことになります。ただ、中間金については以前から住宅金融公庫に中間金を融資する制度があり、上棟した段階で中間検査を受けることを条件に工事費の一部を完成前に受け取ることができます。
もし、住宅金融公庫を利用せずに、一般的な手順で、土地を取得し、施工業者に3分割方式で工事代金を支払う場合には、モデルケースの場合で、土地取得時に500万円、前払い金で650万円、中間金で650万円の合計1800万円、何と総額の4割の資金が必要になってしまう計算です。それだけの資金を調達できずに900万円だけで何とかしようとすれば、施工業者に前払い金が工事費の2割の400万円、中間金は無しで工事を請け負うように言うしかありません。
しかし、私の実家のような零細工務店にとって残りの1600万円を立替払いする負担はかなり重いですし、金融機関からの資金調達コストも信用力の低い中小・零細業者では高くなります。公共工事であれば工事債権を金融機関に持ち込めば融資に応じてくれますが、民間工事の債権を持ち込んで融資に応じたという話はあまり聞いたことがありません。
民間工事でも不動産証券化の普及をキッカケに、金融機関自らプロジェクトの内容を審査して融資に応じる「プロジェクトファイナンス」が適用される事例も出てきていますが、住宅融資は相変わらずの土地担保主義なのです。
私も土地を取得してから、ほぼ同時に家を新築した経験がありますが、住宅金融公庫の中間金融資制度を利用しても自己資金は4割近く用意しました。依頼した工務店は友人の紹介で実績も十分でしたが、前払い金は1割にさせてもらい、最も重要な基礎工事をチェックして完了したのを見届けてから2割、中間検査後に3割、残り4割は工事完了後という4回に分割する支払条件でお願いしました。

住宅取得の資金計画も「つくる」と「買う」とでは違いがあると言えます。本やインターネットなどに出てくる資金計画の多くは、まず「自己資金」を約2割用意できたら、残りの資金を「住宅ローン」でどう借りるか、というものばかり。確かに家を「買う」のであれば、“つなぎローン”など決済のための仕組みも整えられて問題はないのですが、なぜ、「つくる」ときの資金計画に関する情報が少ないのでしょう? 家を「つくる」場合でも、資金力のあるハウスメーカーや有力ビルダーに発注するのなら、住宅ローンの代理受領(金融機関から直接、施工業者がおカネを受け取る)を条件に、土地取得段階からつなぎ融資に応じてくれると聞きます。それであれば「自己資金2割+住宅ローン」でも消費者が資金繰りを心配する必要はないわけで、施工業者に資金繰りを依存している発注者がやはり多いのでしょうか?
しかし、建築家や腕の良い棟梁、大工で資金力のあるところは、決して多くはないと思われます。建築の才能や腕はあっても資金力に乏しい建築家や棟梁とともに自由で個性的な家づくりをしたいのなら、発注者自らが「つくる」ときの資金繰りを含めて建設プロジェクトを主体的にコントロールしていく必要があり、それが発注者本来の“あるべき姿”だと思うのです。

モノを買うときに、そのモノを確認せずに買うことなど、まず有り得ません。代金を支払うときには誰もが慎重にチェックしようという心理が働くはずです。先に紹介した住宅金融公庫の中間金融資制度も、中間検査を受けるのが融資条件で、チェックを行った上で融資が実行されます。
阪神大震災をキッカケに本格的に導入された中間検査は、それ以前、実施率が新設住宅着工戸数の1割程度と言われていました。その全部が中間金融資制度を利用するために実施されていたとしても、「持ち家」は着工戸数の全体の3割ですから、家を「つくる」場合でも中間検査の実施率は最大で3割だったことになります。
つまり、頭金を払ったあと家が完成するまで、第3者の専門家によるチェックは無し。完了検査の実施率も、最近では6割を超えたようですが、当時は4割以下。人生で最も高額な買い物を、中身を調べもせずに買い続けてきたわけで、それこそ「善意の上に成り立った建設生産システム」なのです。
私が家を建てたときに、代金の支払いを4回に分けたのも、チェックポイントを設け、中身を確認しながらプロジェクトを進めたいと考えたからでした。施工業者の立場になってみれば、立替払いの資金繰りまでさせられて、第3者検査など受け入れたくもないでしょうから、キチンと検査した分はこちらもキチンと代金をお支払いしたわけです。
中間検査も最近では建売分譲住宅や木造3階建て住宅を対象に義務付ける地方自治体も増え、大阪府では木造2階建てでも義務付けていると聞きます。そのおかげで実施率も上がってきたようですが、それでも100%実施にならないのは、どうしてなのでしょう。やはり発注者が資金繰りを含めて建設プロジェクトを主体的にコントロールし切れていないからのように思うのです。
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