A-Style 家づくりの経済学  29
家づくりの経済学
家づくりの経済学(29)「つくる」と「買う」(2)
家を「つくる」からには、発注者が果たす責任や役割は、単にモノを「買う」とは比べものにならないほど大きくなります。前回のコラムでは“社会ストックの形成”という視点で、かなり理念的な話をさせていただきましたが、今回は実際の家づくりを行ううえで、直面する身近な問題について取り上げることにします。
家づくりでは、発注者のことを“施主”とか“建て主”と呼ぶように、発注者は建築プロジェクトそのものをコントロールする権限と責任を持っています。専門的に言えば、プロジェクトマネジメント(PM)と呼ばれるもので、資金調達から、建築計画の策定、建築家の選定および建築プラン・デザインの決定、施工業者の選定、資金決済まで、PMの果たす役割は広範囲に及びます。
もちろんPMをハウスメーカーなどに“丸投げ”(一括請負)して「買う」に近い状態で家づくりを行うこともできますが、発注者が主体的にPMに関わることも可能なのです。この連載コラムでは「自分が賃貸事業者になったつもりで、自分に住宅を貸す」という視点によって、家がもつ「資産」の要素と「居住」の要素を分けて考えてみることを提案してきました。今度は、自分がPMR(プロジェクトマネージャー)と自覚したうえで、「つくる」と「買う」の要素を分けて考えてみたいと思います。

家を「つくる」と「買う」との最も大きな違いは、おカネの支払い条件や資金繰りにあると言えます。すでに存在する商品を「買う」場合には、商品とおカネを同時に交換すればよいわけで、ほとんどタイムラグが生じません。しかし、「買う」という行為の間に「つくる」という過程が入ると、注文と納品までにタイムラグが生じるため、おカネをどのタイミングで支払うかという問題が生じることになります。
私自身の行動を振り返ってみると、家具などを買うときには、注文時点で“内金”を払い、配達時に全額支払うケースが多いですし、いつも注文しているケーキショップに誕生日ケーキなどを注文する場合には全額“前払い”しています。私の仕事の場合は、原稿執筆の発注を受けて納品したあとで原稿料が支払われる全額“後払い”がほとんどです。
こうした支払い方法の違いは、どのように決まってきたのでしょうか?タイムラグによって発生するリスク、発注者側にとっては注文した商品が要求した性能・品質で納品されるかどうかの品質性能リスク、受注者側にとっては約束された代金が支払ってもらえるかどうかの資金回収リスクをそれぞれ、どう判断するかなのでしょう。
基本的に、消費者にとっては支払いが遅ければ遅いほどリスクは小さくなるわけで、全額後払いが良いに決まっているわけです。しかし、受注者にとっては、材料費などの資金も自ら調達しなければならない資金調達リスクと、納品までの間に発注者が経済的に代金を支払えなくなる資金回収リスクを抱えることになり、私の実家のような零細工務店にとっては経営的に苦しい支払条件と言えます。
逆に全額前払いは、いつも仕事を依頼していて品質性能リスクが小さいと判断でき、かつ代金が小額で消費者側の資金調達負担も重くないケースではないと、消費者側も応じにくいかもしれません。とくに、家のように千万円単位の金額での全額前払いは、誰もが二の足を踏むのは当然でしょう。

個人住宅などの工事代金の支払い条件は一般的に、前払い金として工事請負契約時に建築費の3分の1、中間金として3分の1、工事完成時に3分の1の「3分割方式」(私が便宜的に命名したもので正式名称ではありません)と言われてきました。資金力の乏しい中小・零細工務店にとってはかなり有り難い支払条件と言えますが、必ずしも3分の1ずつではなく、「3割、3割、4割」だったり、「2割、3割、5割」だったり、条件は必ずしも決まっているわけではないようです。
ただ、受注競争が激しくなるなかで、支払い条件は徐々に厳しくなる傾向にあり、資金力のあるハウスメーカーや有力ビルダーには有利に、中小・零細工務店にとっては不利に働いているのは確かでしょう。完成済みのマンションや建売住宅を「買う」のであれば、建物の引き渡し時に代金を一括して支払えば良いわけですが、「つくる」場合に「3分割方式」を適用しようとすると、建物が完成する前の段階で消費者は建築費の半分以上の資金を調達する必要が生じることになります。しかし、住宅購入資金の大半を住宅ローンに頼ろうとした場合、建物完成前の資金調達には非常に苦労することになるのです。

最初に、住宅ローンを使って住宅を「買う」場合の手続きを整理しておきましょう。 住宅ローンは、土地建物に対する担保設定が完了した時点で実行されるのが基本です。担保設定の前には土地建物の不動産登記手続きを完了して所有権を確立しておく必要があるわけですが、土地代金+工事代金の支払いが完了する前に、家の鍵を引き渡し、住民票を移して不動産登記が行われてしまうと、私の父のように工事代金を踏み倒される危険(コラム27参照=父の場合は言葉巧みに“鍵をちょっと貸してほしい”と騙されて渡してしまった)が生じることになります。
そこで、住宅ローンを実行する金融機関が“つなぎローン”を提供して、まず土地代金+工事代金の決済を完了。その後で、すぐに司法書士が不動産登記と担保設定の手続きを行い、正規の住宅ローンを実行。それでつなぎローンを返済して、あとは住宅ローンを毎月コツコツと返済していくということになるわけです。
この“つなぎローン”は、代金決済から住宅ローン実行までの非常に短い期間に限って提供されるローンで、このローンのおかげでマンションや建売住宅、中古住宅など完成した物件を購入する場合には、自己資金2割、残りは住宅ローンという資金計画でもスムーズに代金の決済ができるのです。
では「つくる」という過程が入った場合の資金繰りはどうなるでしょうか?この続きは次回に。
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