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家づくりの経済学
28
家づくりの経済学(28)「つくる」と「買う」(1)
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
「家をつくる」と「家を買う」−2つの行為の違いを意識したことがあるでしょうか?この連載コラムの表題に「住宅」とか「家」ではなく、「家づくり」という言葉を使ったのは「家をつくる」と「家を買う」を明確に区別する意味を込めたかったからです。
「一般庶民による家づくりが本格化したのは戦後わずか50年ぐらいのこと」とか、「国は建築の素養も知識もない一般庶民に“家づくり”という無謀な行為をさせてきた」とか、この連載コラムでは、消費者に対していろいろ失礼な書き方をしてきました。それは発注者にも、その建物をつくった社会的な責任があると思うからです。
世の中には、家以上に“車好き”と言われる人たちがたくさんいます。しかし、ほとんどの人は自動車メーカーが売り出す車を“買う”だけで、自ら“つくる”人は非常に限られています。改造車とかカスタムカーと呼ばれる車もありますが、ベースは既存の完成車を使っており、車台からサスペンションといった主要部品まで自らつくっているわけではありません。
公道を走るためには、厳しい国の安全試験に合格する必要があります。ゼロから新しい車をつくって売ることがいかに大変かは、新規参入の自動車メーカーが日本では光岡自動車以外なかなか登場してこないという状況をみても明らかでしょう。消費者は、せいぜい車体やシートの色、各種装備などを選ぶぐらいで満足するしかないわけです。
家も、自動車と同様に非常に高い安全性能が要求されます。完成後は、街並みを形成し、いずれは他人に転売されて住み続けられる重要な社会ストックとなります。その家づくりに、消費者は“買う”だけでなく、“つくる”ところから深く関わることができるのです。
日本の新設住宅着工戸数は年間114万戸程度。国土交通省は「持ち家」、「賃貸」、「分譲」の3つに分類、「持ち家」が“つくる”家、分譲マンションと建売戸建住宅をあわせた「分譲」が“買う”家となるわけですが、このうち「持ち家」は年間約36万戸と全体の約3割を占めています。
家をつくる場合には、もちろん建築士や工務店などの建築のプロに依頼するわけですが、在来木造工法、プレハブ、2×4工法など、どの工法や構造を選ぶかは、発注者である消費者の自由。外観も純和風、アメリカンスタイル、ヨーロッパ調、デザイナーズなど、何でもござれ。さらに断熱方式も内か外か、換気は自然式か機械式か、設備はどうするか、など全てに発注者が決定権を持っているわけです。もちろん建築基準法などの様々な制限はかかっていますが、選択の自由度という点では自動車とは比べものにならないでしょう。
消費者の立場に立てば「消費者の夢やワガママを全て満足した上で、安全で高品質な家を低コストで実現するのがプロの仕事だ」と言いたいかもしれませんが、発注者が建築の素養と知識を多少なりとも持っていなければ、優秀な建築士や施工業者を選ぶこともできないはずです。
消費者は、どのようにして工法、構造や建築様式を選んでいるのでしょうか?住宅展示場を訪れて気に入った間取りや設備の家を選んだら、たまたまプレハブだったとか、在来工法だったとか、そんな人が圧倒的に多いように思うのですが、いかがでしょう?
もちろん、建築技術にこだわって、外断熱工法など専門的な本を読み、工法や構造を選んだという方もいるかもしれません。しかし、長年、札幌で外断熱の家を作り続けてきた私の父が良く言っていたことですが、「施工が悪けりゃ外断熱だって結露するよ。防水シートの張り方ひとつ取っても、経験とコツが必要」というところまで理解するのは困難でしょう。せっかく、外断熱にこだわっても、工事を発注した工務店にノウハウがあるかどうかを見抜けなければ、期待した性能を実現できず、結局コストだけ高くなってしまいます。
そうした意味で、国が一般庶民に“家づくり”という無謀な行為をさせるのに、戦後、ハウスメーカーを育成してきたのは間違っていなかったのかもしれません。家づくりを工業化することで品質性能の均一化を図り、住宅展示場のモデルハウスの中から選択させることで分譲住宅や自動車の売り方に近づけようとしたわけです。
工業化することで本来は、コストも大幅に削減できます。ハウスメーカーが得意とする「企画型住宅」(間取りや外観デザインなどが数種類に限定されている商品)が大量に売れるなら、ミサワホームは売り出して話題となった坪単価25万円の「リミテッド25」のような低コスト住宅も実現できるのです。ところが、企画型住宅は一般的に日本では不人気で、ハウスメーカーでも“自由設計型住宅”の方が好まれる(自由設計を、なぜハウスメーカーに依頼しようとするのかは私には判りませんが…)。ハウスメーカーも売るのが商売ですから、消費者のどんな要求にも追加費用さえ払ってもらえば黙って応じるでしょう。
「企画型住宅は、われわれプロが全体のバランスや質感も十分に検討して設計している。自由設計となったとたんに、“トヨタカローラ”のボディに、“ベンツ”のドアを付けてくれ!といった要求が平気で出てくる」とは、私の友人であるハウスメーカー設計担当者の言葉。発注者が何を選ぼうが、外観をどんな色に塗ろうが勝手だと思われるかもしれませんが、家づくりとは個人の住まいをつくるだけでなく、街並みや風景をつくり、将来の住宅ストックをつくることでもあるはずです。
正月は、山々に囲まれ美しい田園風景で知られた地方にある女房の実家で過ごしました。高速道路の開通で都市化が進み、田園風景には似つかわしくない都会型プレハブ住宅や、都市と全く同じデザインの商業店舗が次々に出現。かつての面影は急速に失われつつあります。多くの人が賞賛する欧州のきれいな街並みや美しい住宅街とは比べようもない惨状をつくったのは、発注者自身であることは間違いありません。重要な社会ストックでもある「家」をつくることの社会的な責任を自覚することも“家づくり”ではないでしょうか。
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