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家づくりの経済学
25
家づくりの経済学(25)建築コストを考える(1)
家づくりを居住コストの視点から金利負担の切り口で考えてきましたが、そろそろ家そのもののコストについて考えてみることにします。
建築コストについて良く指摘される問題に、見積書の不透明さがあります。基礎工事一式○○円、木工事一式△△円、電気工事一式□□円—そんな書き方の見積書を見たことのある人もいると思いますが、いかにも”どんぶり勘定”という表現がぴったりで、不信感を感じる人も少なくないかもしれません。
自動車などの工業製品のコストであれば、材料費、労務費、工場設備などの減価償却費、販売費、一般管理費といった項目が明確になっていて、トヨタ自動車では「乾いたタオルを絞る」と表現されるほど、厳しいコスト管理が行われています。もちろん、工業製品のコストは企業秘密に関する事項で、消費者にオープンにされていないわけですが、イメージ的に家づくりのコストはいかにもあいまいで、キチンと管理されていないように感じられるかもしれません。
しかし、家づくりのコストは、工務店やハウスメーカーだけで決められるものではありません。木材や住宅設備機器の値段や労務単価、複雑な流通構造、さらには発注者の考え方によっても家づくりのコストは大きく左右されます。
なぜ、家づくりのコストが、消費者から見て“どんぶり勘定”と思えるようなやり方となってきたのでしょうか。多少、退屈かもしれませんが、昔ながらの工務店だった私の親父(5年前に廃業)の仕事振りを紹介することで、改めて家づくりのコストについて考えていきたいと思います。
私の実家は、祖父と父の2代、札幌市で約70年続いた工務店でした。祖父は宮城県出身で曾祖母と妹の3人で大正時代に北海道に渡り、苫小牧市で大工の棟梁に弟子入りして修行したあと、昭和元年に札幌市に移り、大工の仕事を始めたようです。
最初から工務店として請負契約を結んで工事をしていたのかどうかは判りませんが、私が物心ついたころには住み込みの弟子が3人いました(いまでは立派に独立していますが…)。祖父が棟梁、父は2級建築士の資格を取り、設計士、積算技術者、大工(1級技能士)、施工管理技術者と1人4役をこなし、母が帳簿や支払い関係を取り仕切るという典型的な家内生産で、年間3−4棟の新築工事とリフォーム工事などを請け負っていました。
仕事の受注は、顧客の紹介によるものばかりで、飛び込みの仕事を引き受けたことは私の知る限りではほとんどありません。定年退職して退職金で家を建てる方や実家の近所にも顧客が多く、互いに顔の見える形で仕事を続けてきました。
祖父は、陽気で社交的な人で70歳過ぎまで現役で働いていましたが、木材を見る目は確かで、長い間、木材の買い付けは祖父の役目でした。材木は工業製品ではありませんので、品質のバラツキが大きく、問屋に良い木材が入ると、多めに仕入れたり、通し柱に使えそうな木材は3−4年、木材置き場にほったらかしておいて自然乾燥させるといったやり方をしていました。木材を木材置き場の中であっちこっちに動かしてみたり、奥の方にしまったりという作業をよく手伝わされましたが、そろそろ使えるかどうか、木材の状態をチェックしていたのでしょう。
木材にも“天地”があるのをご存知ですか?木が自然に生えていた時、根に近い方が“地”で、家を建てるときも自然の摂理に合わせて柱の“地”の部分を下にするのが基本。しかし、製材された木材は、どちらが天地か、大工でも判断できない場合もあるので、祖父が木材を加工する前に印を付けて、どの木材をどの部分に使うかも全て指示していました。
他の建材もロット(発注単位)で購入するために、1軒分だけでは材料が余ってしまい、作業場の2階にある材料置き場には余った材料が保管されていました。余った材料だけで十分に家を1棟以上建てられるぐらいあったかもしれません。もちろん、発注者の好みはバラバラですから、そのたびに希望の材料を仕入れなくてはなりませんが、見えない部分や顧客がこだわらないところには手持ちの材料などを使うことで、全体のコストを下げる努力をするわけです。
材料費だけを取り上げてみても、祖父や父が行ってきた仕事のやり方では、工業製品のような厳密なコスト計算が難しいのは確かでしょう。3−4年自然乾燥させた通し柱を、いくらで見積もりすれば良いか。いつ使えるかどうか判らない「余った材料=手持ちの材料」を、工務店はコストから差し引く必要があるのか。手持ちの材料を使った場合、いくらでコスト計算すれば良いのか。簡単には解決できない難しい問題なのです。
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