A-Style 家づくりの経済学  75
家づくりの経済学
家づくりの経済学(22)住宅ローンの証券化(2)
住宅ローン(正確には住宅ローン債権)の証券化は、米国を中心に発達してきた仕組みです。日本に証券化の仕組みを導入することで、住宅市場や住宅ローン市場はどのような影響があるのでしょうか?米国と似たような市場構造へと変化していく可能性もあるのでしょうか?

米国で住宅ローンの証券化の仕組みが誕生したのは、(社)不動産証券化協会の資料によると、1930年代のことのようです。1929年の大恐慌のあと、米国では民間金融機関が長期の住宅ローンに慎重になった(いわゆる“貸し渋り”が発生した)ために、米国政府が円滑な資金供給を図るため、公的保証制度と住宅ローンの2次市場の創設を措置しました。
「住宅金融公庫の廃止によって最も影響を受けるのは“与信”の部分でしょう」—コラム(18)でそう指摘させていただきましたが、かつて米国でも与信が収縮して“貸し渋り”が発生し、住宅ローンに政府が関わらざるを得なくなった歴史があったわけです。
当初、FHA(連邦住宅保証)などの公的保証会社が、民間金融機関の中低所得者向け住宅ローンに保証を付け、FNMA(連邦抵当金庫、通称ファニーメイ)などの公的金融機関がFHA保証ローンを買い上げたり、直接転売したりして2次市場を創設。1970年になって、GNIM(政府抵当金庫、通称ジニーメイ)が、買い取った住宅ローン債権を証券化して債券を発行。これが最初の住宅ローン債権の証券化(MBS=モーゲージ・バックド・セキュリティーズ)でした。
ちなみに「モーゲージ(Mortgage)」は、直訳では“抵当”ですが、米国では一般的に“住宅ローン”を指すようです。MBSの仕組みを使った住宅ローンを提供する金融機関は「モーゲージバンカー」と呼ばれていますが、まさに“住宅ローンの銀行”(日本の区分ではノンバンクですが…)であるわけです。

住宅ローンの証券化はもともと一般消費者向けに作られた仕組みですから、米国でモーゲージバンカーと言えば非常にポピュラーな存在のようです。住宅ローン新規融資額のシェアで見ても、モーゲージバンカーのシェアは約56%(97年調べ)。これに対して商業銀行のシェアは約26%ですから、米国ではモーゲージバンカーが圧倒的な強さを発揮しているのです。
モーゲージバンカーが多く利用されている理由は、提供する住宅ローンが長期・固定金利で消費者にとって利用しやすいというだけでなく、モーゲージブローカー(仲介者)を活用した販売ネットワークにもあると言われます。
銀行であれば、預金など様々な金融サービスを提供するために営業店舗も必要ですし、店舗には営業マンも配置しなければなりません。しかし、住宅ローンの貸出業務だけなら店舗も必要最小限で済みますし、モーゲージブローカーとしてファイナンシャルプランナー(FP)などにアウトソーシングすれば営業マンも要らない。銀行に比べると、販売コストを引き下げやすいと言うことができるのです。
日本にも“モーゲージバンカー”と呼べる住宅ローン専門のノンバンクが誕生してきました。ソフトバンクファイナンス系の「グッドローン」がモーゲージバンカーの草分けですし、住宅金融公庫の証券化業務開始に合わせて日立キャピタルを中心に、積水ハウス、大和ハウス工業が出資して今年5月に設立された「日本住宅ローン」もそうです。
住宅金融公庫が投資家に販売するMBSの利率は、金融市場の状況にも左右されますが、
現状では1.7%前後と見られています。これに住宅金融公庫の手数料(証券化するのに必要な費用など)0.9%を上乗せした金利2.6%前後で、民間から住宅ローン債権を買い取ることになります。
どの金融機関も買い取ってもらう金利条件は同じ。つまり、販売コストの安い金融機関が、より有利な金利を消費者に提示できるというわけです。日本住宅ローンでは、FP資格を持つ人も多い住宅メーカーの営業マンを積極的に活用する作戦で、金融公庫の証券化を利用した商品では最も低い金利2.92%を実現。UFJ銀行の4.05%に比べると1%も低いわけで、同じ仕組みを使っても金利差が生じる商品なのです。
余談ですが、住宅金融公庫が証券化事業を開始することに、日本の大手銀行は内心、快く思っていないという話を随分聞きました。販売コストの面ではモーゲージバンカーに太刀打ちするのは難しいと判っているからでしょう。

ところで、住宅ローンの証券化が発達した米国の住宅市場には、どのような特徴があるのでしょうか?
日本と比較した場合、最も象徴的な違いは中古流通市場です。2001年度の国土交通白書によると98年調べで、人口1000人当りの新築戸数と中古流通戸数は、日本が新築9.5戸に対して中古0.9戸。米国では、新築6.0戸に対して中古18.4戸。中古だけを比べると、何と日本の20倍という流通量があるのです。
コラム(8)で住宅の平均寿命の話を取り上げましたが、日本の26年に対して米国は44年。中古住宅でもキチンと手入れをして設備なども良くしていけば、買ったときよりも高い価格で売れるという話も聞きます。住宅ストックを有効に活用する市場構造が形成された背景には、住宅ローンの証券化が大きく影響してきたと考えられるのです。
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