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家づくりの経済学
20
家づくりの経済学(20)変革期を迎えた住宅ローン(3)
「住宅ローンを利用するなら固定金利」—そんな断定的な言い方は、最近はあまり耳にしなくなった印象があります。
かつて、住宅ローンと言えば、固定金利を選ぶのが“当たり前”だったはず。今さら、改めて強調する必要もないというので言わなくなっただけなのでしょうか。それとも、意図的に言わないようになったのでしょうか。何とも、気になるのです。
金融機関のホームページをみると、住宅ローン選びのポイントをまとめた解説が掲載されています。ほとんどの場合は、固定と変動の商品特性の違いをメリット・デメリットで整理する程度に止めているようです。
「長期固定金利の資金を中心に利用する」—いまだにそう明確に書いてあるのは、私が見た限りでは、住宅金融公庫とUFJ銀行ぐらいでした。金融公庫の場合は、固定金利商品がメーンですから当然でしょうが、UFJ銀行には少し驚きました。常識的に考えて、変動金利商品が主力の民間金融機関が、固定金利商品を勧めるような解説は書きにくいでしょうから、UFJ銀行の対応はは良心的(?)と言えるのかもしれません。
昨年当りから住宅ローン市場で、民間金融機関が貸出を急速に伸ばしています。住宅金融公庫の金利も2%台と十分に低いわけですが、当初予定していた融資枠を消化できずに民間金融機関の変動金利商品にシェアを奪われているわけで、目先の金利水準だけで商品を選ぶ傾向が強まっているようにも思えます。
「固定と変動、最後にどちらを選ぶかは消費者の自己責任」—確かにそうであるにしても、消費者に対して「金利変動リスク」を出来るだけ判りやすく解説し続けることが、メディアやファイナンシャルプランナーなど専門家の役割だと思うのです。
新聞社に在籍して建設省記者クラブ(現・国土交通省記者クラブ)に常駐していた97—98年ごろ、住宅金融公庫の「ゆとりローン」が大きな社会問題になったことがありました。まだ10年も経っていないので、ご記憶の方も多いかもしれません。
ゆとりローンとは、住宅ローンの払い始め時期の返済負担を軽減し、徐々に返済額を多くしていく方式です。バブル崩壊後、景気対策の一環として住宅投資を刺激するため、住宅金融公庫が93年に導入した制度でした。
このゆとりローンが大きな社会問題となったのは、金利の軽減措置期限が切れ、ローン返済額が増えたために、ローン破たん者が一気に増えたためでした。
その当時のメディアの論調は、こんな風だったと記憶しています。「国がローン破たんを大量に生み出すようなリスクの高い商品を売るとは何事だ」。しかも、金融公庫の延滞金利がサラ金並みの14%台であることも指摘され、金融公庫は袋叩きにされたのです。
ゆとりローン導入が議論された92年ごろは、バブル崩壊の傷はまだ浅く、遠くないうちに景気は回復すると考えられていた時期で、まさか終身雇用制が崩れ、賃下げ時代が到来するとはほとんどの人は想像していなかったはずです。今後も順調に所得が増えて、数年後に返済額がドンと増えても大丈夫だと思ったのでしょう。
「住宅ローン破たんのほとんどは、93、94年に貸し出したゆとりローンに集中しているのは事実です」—金融公庫の幹部と話をしたときにも、明らかに政策のミスであったことを認めていましたが、メディアの強い批判などを受けてすぐにゆとりローンは廃止になったわけです。
「一般消費者は、考えている以上に、金利変動リスクに弱いもんだなあ」—ゆとりローンの問題を通じて実感したのは、このことでした。軽減措置期限が切れれば返済額が増えるのは、変動金利商品で金利が上昇したのと似たような状況と考えられたからです。キャンペーン金利の適用が終了したときにも似た状況になるかもしれません。
ゆとりローンの場合、返済額が一気に1.5倍以上に跳ね上がるケースもある、かなり問題の多い商品ではありましたが、消費者も5年後に返済額が増えることは十分に認識して借りたはず。でも、ローン破たんが続出したのです。
もちろん変動金利商品の場合は、そのまま金利上昇が起こらずに返済額が増えない可能性もあるわけで、ゆとりローンとは本質的に違うという反論もあるかもしれません。しかし、金利が上昇すれば、返済額も増えてしまい、ゆとりローンに似た状況が発生しないとも限りません。
民間金融機関の住宅ローン金利を調べると、3年固定型で年2.25%、それが10年固定で年3.8%、20年固定で4.9%(UFJ銀行のケース)となっています。例えば、2000万円を20年返済で借りる場合、奇跡的に低金利状態が続いて2.25%のままなら、月返済額は約10.4万円、金利負担は約485万円。20年の固定金利で借りたのなら、月返済額は約13.1万円、金利負担は約1141万円と2.3倍に増えてしまいます。
しかし、裏を返せば、金融機関ですら、金利変動リスクに対応するためには月3万円もの金利を上乗せしているわけです。消費者側にも、それぐらい返済額が増えても余裕があるのなら良いわけですが、金利変動リスクは一般消費者が背負うにはかなり危険なものであるとの認識は必要でしょう。
自己責任原則が浸透して個人のリスク管理意識が高いと言われる米国でも、住宅ローンは基本的に固定金利商品が主流だと聞きます。
「何に付けて政府の関与を嫌うアメリカ人が、住宅ローンの金利変動リスクに関しては、証券化によるリスクヘッジを政府系機関が行うことを認めてきた」(大学教授)。
住宅という生活基盤を支えるものが、金利変動に大きく影響されれば社会不安を招く危険があるからでしょう。住宅だけは、簡単に売ってローンを清算するというわけにも行かないですから…。
消費者側も、固定金利で無理のない資金計画を考えたうえで、さまざまな住宅ローン商品を検討。多少なりとも金利負担を軽減でれば「儲けもの」というぐらいの余裕が必要であると思うのです。
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