A-Style 家づくりの経済学  16
家づくりの経済学
家づくりの経済学(16)100年住宅の維持管理
「いまや、技術的には100年住宅をつくることは可能だが、誰がそれを維持管理していくかが問題だ」−先日、家づくりをテーマにしたシンポジウムを聞きに行ったときのこと、建築学の大学助教授から、こんな発言が飛び出してきました。
100年もつ住宅を建てることはできても、それを建てた建築家や大工が100年の間、面倒を見続けることはできないわけですし、100年の間には持ち主も何度か変わっていくことになり、誰が責任をもって家の面倒見ていけば良いのか、という内容の発言でした。 パネルディスカッションのパネラーは、ほとんどが建築家と建築学専攻の大学の先生という人たちばかりでしたが、この問題提起に対して、誰もはっきりした答えを出さずにシンポジウムは終わりました。

この話を聞いて、どう思われるでしょうか?率直な感想を言わせていただければ、建築の先生方には“市場”の視点がほとんど欠落しているようです。
もし、私が問題提起をするならば、こんな表現とするでしょう。
「わずか20年で資産価格が実質ゼロと査定されてしまう住宅に、残り80年、どうやって持ち主に高い維持管理費を支払わせながら住み続けさせることができるのか?」
テレビ東京系の人気番組「なんでも鑑定団」ではありませんが、多くの人が古くなってしまった品物でも大切にするのは「価値がある」と思うからです。祖父母や父母の形見だとか、思い出の品だとかいった理由でもなければ、なおさらでしょう。
家も同じではないでしょうか。著名な建築家が設計した住宅であれば、家と言うよりは“芸術品”としての価値が高いでしょうから、持ち主も大切に維持管理するはずです。しかし、ハウスメーカーや工務店が建てた一般的な住宅を維持管理して大切に住み続けてもらうというのは、現状ではかなり難しいと思うのです。
シンポジウムの最後では、世界遺産にも指定された飛騨高山の白川郷の話が出てきました。何百年も大切に住み続けられてきた白川郷のような住宅をめざすべき、といった発言内容でしたが、なぜ白川郷の民家は大切に住み続けられてきたのでしょうか。「立派で丈夫な家だったから…」という建築学的な理由もあるかもしれませんが、「当時の日本の農村部には家を簡単に建て替えるほどの経済力がなかった」という経済的な理由の方が大きいように思えます。

家づくりに携わっている人たちと話していると、こんな思い込みを感じることがあります。
「良い家をつくれば、大切に長く住み続けてくれるはずだ」と。
つまり、良い家には「普遍的な価値がある」という考え方です。例え、中古住宅市場においては査定価格がゼロと評価されたとしても、別の視点から良い家は評価され続けるはずだ、ということのようです。
自分が建てた家や幼いときの思い出のある家とか、特別な理由があれば別ですが、全くの他人がその家を評価する場合、資産価値以外に何で評価するでしょうか。「なんでも鑑定団」に登場する品物の多くは、稀少性のあるモノがほとんどですし、芸術性や骨董品としての価値も評価されます。“ブランド品”という価値もあるでしょう。
白川郷や京都の町屋に対する評価も、建築専門家以外の一般の人にとっては骨董的な価値や稀少性で評価されている部分が大きいように思うのです。しかし、大量供給されている現代の工業化住宅に、資産価値以外のどんな価値を認めてくれるでしょうか。
もし工業化住宅が100年間、大切に住み続けられたとして、100年後に白川郷の民家のように評価されるとは、現時点では想像しにくいことです。もちろん100年も経てば、骨董的な価値も出てくるかもしれませんが、そのためには回りの住宅が次々に建て替えられて立派になり、自分の家がいくら“みすぼらしく”見えるようになったとしても100年間、大切に住み続ける覚悟が必要でしょう。
あとは、ヴィトンやシャネルのように“家”をブランド化するという考え方もあります。大手ハウスメーカーの中にも最近ブランド化をめざす動きも見受けられますが、ブランド化が可能なのは坪単価100万円を超える高級住宅に限られるのではないでしょうか。ファッションやインテリアの分野では、高額ではないブランド商品もありますが、高級品に比べて流行に左右されやすいでしょうから、100年間というスパンで価値を維持することは難しいと思うのです。

住宅を100年間、大切に住み続けてもらうには、基本的には住宅が70年、80年は中古住宅市場の中で資産価値を評価され続ける必要があると考えられます。資産価値があれば、金融機関も担保価値を認めて理論的には(?)住宅ローンに応じることになりますし、持ち主にも資産価値を落とさないように大切に維持管理するインセンティブが働きやすくなります。
さらに資産価値が長い間、維持されていて、例えば80年かけて減価償却して良いのであれば、新築して20年後に住み替えで売却する時までの減価償却費は1800万円から、一気に4分の1の450万円で良いという計算になります。
[家賃]×[居住期間]≧[金利負担]+[減価償却費]+[固定資産税等]+[維持管理費]+[保険料等]
お馴染みの数式に入れて考えてみても、減価償却費が1000万円以上も軽減されれば、新築住宅に投資しても20年間で十分に“元が取れる”計算になり、安心して家づくりに取り組めるわけです。
確かに技術的には100年住宅を作ることは可能になったのかもしれません。しかし、100年間、中古住宅市場で流通させるための仕組みも作らないままに、「良い住宅は長く大切に住み続けてくれるはず」との思い込みでハイスペックに作られた100年住宅が結局、市場で流通せずに、いとも簡単にスラップされてしまえば、それこそ“資源”の無駄遣い。まさに建築家や工務店の自己満足でしかないように思うのです。
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